初恋

 

 

 

 
「あの人を殺したらトールが帰ってくるの?!違うでしょ!」
眼前で怒鳴りつけられ、ディアッカは思わず首を竦めた。
「あ…いや…そうだけどよ」
「……だったらそんな事、言わないで!!」
再び自分を怒鳴りつけた少女の瞳には涙が溜まっていて。
気づけば足が勝手に、走り去る少女の背中を追いかけていた。
 
 
 
目の前に現れた、恋人を殺したというコーディネイター。
そしてそれは、自分の友達の友達、で。
かつて医務室であれだけ激しい感情の昂りを見せた彼女にとって、恋人の仇──アスラン・ザラを目の前にし、かつ友達であろうストライクのパイロットが発した言葉は、どれだけ鋭い刃となって胸に刺さったことだろう。
そこまで考え、ディアッカは彼女を追いかける足を止めないまま、内心で首を捻った。
 
 
──なんで俺、こんなことしてんだろ。
 
 
他人に興味なんて、一部を除けばほとんどなかった。
あんな風に女に怒鳴りつけられたことなんて、十七年の人生でも初めてだった。
まして少女はナチュラル。
数ヶ月前までは敵であり、コーディネイターの秀でた能力に劣等感を抱く醜い旧人類。
確かに、釈放される際に彼女が口にした言葉には少なからず感銘を受けたことは認める。
オーブは私の国だから、と綺麗な碧い瞳でまっすぐに自分を見つめた、か弱いナチュラルの少女。
劣勢一方だった戦況を見つめながら、あの碧い瞳と一度だけ見せてくれた儚い笑顔が頭から離れなかった。
どうしちまったんだ?俺。捕虜生活長すぎてどっかおかしくなってんのか?
そこまで考えた時、ディアッカはやっと彼女に追いつくことができた。
大きな木の幹に縋って泣きじゃくる彼女にどう接すればいいかも分からず──女の扱いに離れているはずなのに!──しどろもどろに慰めの言葉を口にする。
果てはアスランについて聞かれてもいないのにまるで庇うような言葉まで口にしていて、さらに頭が混乱してしまって。
そんなディアッカを見上げ、ミリアリアはくす、と微笑み、ありがとう、と呟いた。
 
 
その瞬間感じた、心臓を射抜かれるような、衝撃。
 
 
生まれて初めて感じたこの衝撃は一体、何なのか。
自分の涙で汚してしまったディアッカの洋服を申し訳なさそうに見て、替えの服を用意するから、と少女──ミリアリアが歩き出す。
 

「──ミリアリア!」
 

勝手に口から飛び出した彼女の名に、ディアッカ自身が一番驚いた。
「……なに?」
「……い、いや。サンキュ」
泣きはらした顔が訝しげな表情に変わるのを視界の隅に捉えたまま、ディアッカはミリアリアの後について歩き出す。
この感情はなんなのか。なぜこんなにも胸が疼くのかディアッカが気づくのは、もう少し先の、未来の話。
 
 
 
 
 
 
 
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Twitterでお世話になったとある方にお礼として書かせていただいたお話です。
ご本人の承諾を頂き、拍手小噺として掲載させていただきました。
序盤も序盤、ディアミリにおいて欠かせない有名なシーンのお話です!
これもまた、サイトにおいてある過去の拍手小噺「恋の始まり」の
続編になるのかな?
あの頃よりもう少しはっきりとミリアリアへの特別な感情を意識し始めた
初々しいディアッカが個人的に好きです。

 

 

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2016,9,11拍手up

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