私は私を諦めます

 

 

 

 
※こちらのお話は「手を繋いで」とは別の設定となります。
 
 
 
 
 
 
ああ、苦しい。
なんなのかしらこれ。まさか病気?
それとも酸素が漏れてる、とか?
ーーそんなわけないわよね。モルゲンレーテの技術はプラントのそれにだって引けは取らないもの。
じゃあどうして私の胸は、こんなに苦しくて痛いのだろう。
 
 
「なっ…え、ミリアリア!?マジかよっ?」
 
 
あーあ。気がついちゃった。
さっきから同じ部屋にいたのは知ってたけど、こっちはなるべく目立たないようにって最後尾にいたし、写真だって我慢したのに。
だって、カメラなんて構えてたら一発でバレるに決まってるもの。
元々の発端だって、カメラだしね。
ああ、そんなにバタバタ走っちゃって。せっかくの黒服が台無しじゃない。
 
 
「ミリアリア!」
 
 
ーー分かった。なんでこんなに胸が苦しくて、痛いのか。
『振っちゃった』なんてマードックさんたちには大見得切って、実際気にもしていなかったはず。
それなのに、こんな風になってしまうのはーー同じ空間にあなたがいると知ってしまったからなんだ。
 
 
「お前、こんなとこになんでいるんだよ!しかもそのカッコ…オーブ軍の軍服じゃん!」
「戦場カメラマンの仕事は?つーか俺、こっぴどく振られた事になってたんだけどどういう事だよ!」
 
 
覚悟を決めて、自分の肩を掴む男の顔を見上げる。
途端、ぎゅうっと、胸が締め付けられた。
相変わらず綺麗な紫の瞳。蜜色の髪、褐色の肌。
記憶よりも背はだいぶ伸びていて、体つきも大人っぽくなって。
ああ、顔を見ちゃうと、やっぱりダメ。
 
いいのかな。素直になってもいいのかな。
意地を張って離してしまった手を、彼の心を、もう一度取りに行ってもいいのかな。
 
迷ったのは一瞬だけ。
気にはしてなかった。でもーー忘れてなんか、いなかったから。
そろそろ、終わりにしよう。目を背けることを。
そう心を決めると、万感の想いを込めて、ミリアリアはたった一言、言葉を紡いだ。
 
 
「好き。」
 
 
たくさん言いたい事、言わなきゃいけない事はあるけれど、それを全部言っていたらきっとAAは地球に戻ってしまう。
だから、この一言に全ての想いを込めて、もう一度口にする。
 
 
「わたし、やっぱりあんたの事、好きよ、ディアッカ。」
 
 
目の前の男は少しだけ垂れた目をこれでもかと言わんばかりに見開き、見た事も無いような顔をした後、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
……なにやってるのかしら、こいつ。
周りの視線が、ちょっとだけ痛い。
 
 
「なにやってるの?」
「……ごめん、今あんまりこっち見ないで」
「なんで?」
「なんでって…あーもう!反則だろマジで!」
「なにが?」
「わかんなきゃいいよ!お前それって…ああもう、なんでもない。」
「…諦めただけよ。」
「は?」
 
 
ミリアリアを見上げるディアッカの顔は、かすかに赤く染まっていて、紫の瞳は揺れていて。
そんな彼をまっすぐに見下ろしながら、ミリアリアは口を開いた。
 
 
「あんたなんかいなくても大丈夫、って思ってた。思い出があればそれだけでいい、って思ってた。事実それだけで今までやって来たわ。それなのに…どうしてなのか、あんたを見てるとひどく、胸が痛いのよ。だから、諦めたの。」
「…なにを?」
「…意地張って我慢することとか、一人で生きて行くこととか、他にも色々、これまでの私を。」
 
 
ゆっくりと立ち上がったディアッカの腕が伸ばされ(少しだけそれは震えていたけど、気付かないふりをしてあげた)大きな手がミリアリアの頬にそっと触れる。
その仕草の一つ一つがとてつもなく愛おしくて。
素直になってもいいよね?だって、この胸の痛みを治せるのは、このひとしかいないんだもの。
 
 
ーー本当はずっと、会いたかったんだもの。
 
 
ミリアリアは深く息をつき、頭ひとつ分背の高いディアッカを見上げる。
きっと自分の顔だって、彼に負けないくらい赤くなっているだろう。
熱を帯びているのが、自分でもよくわかる。
 
 
「ミリーー」
 
 
色々と諦めたけど、先制攻撃はこっちから、させてもらうんだから。
ミリアリアは細い腕を伸ばし、ディアッカの広い背中に回す。
そうして、何よりも大切な男を、自分の腕の中に閉じ込めてやった。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

うわぁぁぁすみませんすみません;;
攻めなミリィを目指して頑張ってみましたが、色々履き違えて、る…?
いつもと違う文体は難しいですね←言い訳
再会シリーズの一つとなるこちらのお話、趣向を変えてミリアリア視点のみで作成しました。
私にしては珍しく、短めです(そこだけは達成感!笑)。
ラストの部分、すっごく難しかったです。ミリィ別人になってないか心配です;;
ごごご、ご感想やご意見等は甘んじて受け止めますorz
こんな再会もありかな、と思い一気に作成したこちらのお話、楽しんでいただければ幸いです。

 
 

text

2015,11,15拍手小噺up
2016,1,19改稿・up

お題配布元「fynch」