温もりに泣きたくなった

 

 

 

 
ディアッカが目を開けると、室内はまだ暗かった。
何故こんな時間に目が覚めてしまったのだろう。
そっと視線を巡らすと、見慣れぬ天井に見慣れぬ家具。
そして、自分のすぐ隣には温かくて甘い香りのする恋人が穏やかな寝息を立てていた。
 
 
そう、ここはオーブで、自分はやっともぎ取った短い休暇を利用して隣に眠る恋人に会いに来たのだった。
滞在出来るのは二日だけ。
夜が明けたらディアッカは朝一番のシャトルでプラントに帰らなければならない。
次にこの温もりを直に感じられるのは、いつになるだろう。
 
──いっそプラントに連れて帰ってしまいたい。
 
ミリアリアとの逢瀬を重ねる度に心に沸き上る想い。
だが、戦争が終わったばかりの不安定な情勢ではそれも叶わず、ディアッカは溜息をつくと細い体をそっと抱き締め、柔らかい髪に顔を埋めた。
俺って、こんなに寂しがり屋だったか?と疑問符が脳内に浮かぶ。
ディアッカは、子供の頃からひとりでいる事に慣れていた。
父は研究や政治家としての仕事が忙しく、夕食を共にする事すら稀で。
ディアッカはいつも大きな屋敷の大きな部屋で、本を読んだりコンピューターを弄ったりしていた。
手に入らなければ、望まなければいい。
そう思い始めたのは、いつからだったろう。
今思えば、相当扱いにくくかわいくない子供だったと思う。
そんなディアッカが初めて心から欲しいと願い、守りたいと思った存在。
確かに手に入れたはずなのに、どうしてこんなにも心が騒ぎ、どうしようもなく寂しくなるのだろう。
 
「…なぁ、お前も…寂しい?」
 
答えなど返って来ないと分かっているのに、小さく腕の中の愛しい少女に問いかける。
と、それに呼応するかのように、眠っていたはずの少女のまぶたがゆっくりと開き見事な碧い瞳が現れ、ディアッカは思わず息を飲んだ。
 
 
「……ん…?でぃあ、か?」
 
 
寝起きだからなのか、子供のようなあどけなさで名前を呼ばれ、小さな手がそっとディアッカの頬に伸ばされる。
頬に触れた手の温かさに、ディアッカはなんと言っていいか分からずミリアリアのぼんやりとした顔を見下ろした。
 
「…泣きそう、な…かお、してるよ?…さみしい、の?」
 
ディアッカはまるで自分の心を見透かされたような気がして、びくりと体を震わせた。
それとも…もしかして、起きていたのか?!
「ミリィ、あー、その」
「だいじょうぶ、だよ」
まるで花が咲くように、ミリアリアはディアッカを見つめながらふわりと微笑んだ。
 
「いっしょに、いるでしょ?だから、さみしくない…よ?」
「…あ」
「ほら…わたし、ここにいる。ね?」
 
頬に添えられていた小さな手が、洗いざらしの豪奢な金髪に伸ばされる。
そして、ミリアリアはそっとディアッカの頭を自分の元に引き寄せ──柔らかく抱き締めた。
ゆっくりと頭を撫でられ、ディアッカの体から力が抜けて行く。
「ディアッカ…あったかい」
くす、とミリアリアが微笑んだのが気配で分かった。
 
 
「いっしょにいても…離ればなれでも。わたしは、いつだって……あんた、のこと…ちゃん、と…」
「……うん」
「ちゃんと…すきで、いる……」
「………うん」
 
 
込み上げる愛しさと、それ以外の何かに耐えきれず、ディアッカはミリアリアの手の温かさを感じながら目を閉じる。
ゆっくり、ゆっくりと何度かディアッカの髪を撫でていたミリアリアの手が、不意にぱたり、とシーツに落ちた。
そっと様子を伺うと、聞こえて来たのは静かな寝息。
どうやら、眠ってしまったようだ。
無理も無い。つい先刻、しつこいくらい何度も求めてしまったのだから、相当疲れているはずだ。
きっと、半分眠ったままの状態で、ディアッカの声に反応して半分覚醒してしまったのかもしれない。
だが、あどけない表情のミリアリアの唇から紡がれた言葉は、いつしかディアッカの心に巣食った不安や寂寥感を綺麗にぬぐい去っていた。
後に残るのは、例えようも無い愛しさと、自分を包んでくれる温もりに対する安心感。
「…ざまぁねぇな、俺も」
目を閉じたまま、ディアッカは苦笑まじりに小さく小さく呟いた。
子供のように頭を撫でられて、自分より何倍も細くてか弱い腕に守られるように抱き締められて、こんな気持ちになるなんて。
そう、いつだって、どこにいたって、ミリアリアは自分の事を好きだと言ってくれた。
それは自分も同じ事。
ミリアリアと言う、誰にも渡したくない、守りたい存在があるからこそ、ディアッカは前を見て進む事が出来る。
悪く言えば依存、なのかもしれない。
それでも。いつかコーディネイターとナチュラルが本当の意味で手を取り合い、和平への道を歩み始める時が来たならば。
ミリアリアに、プラントと言う場所を見てもらいたい。
そして叶うならば……ずっと、一緒に──。
 
 
「サンキュ、ミリアリア。…おやすみ」
 
 
自分がプラントに、ザフトに戻った理由をディアッカは思い出す。
志半ばで挫けるわけにはいかない。
何より自分は身をもって知ってしまったのだから。
あの戦争の空しさを。ふたつの種族が殺しあう事の無意味さを。
時間は掛かるかもしれない。それでも、分かりあえる日はきっと来るはずだ。
たったあれだけの言葉でここまで自分を奮い立たせる事が出来るミリアリア。
きっと朝になってこの話をしたらミリアリアは死ぬ程照れまくるだろう。
その前に、覚えてすらいないかもしれない。
その光景を想像して、ディアッカはくすりと微笑んだ。
そして、いつもとは逆の体勢で、ディアッカはミリアリアの温もりを感じながら深く息をつく。
たまにはこういうのも、いいよな。
ミリアリアのくれた言葉と、溢れるばかりの優しさ。そして、今この瞬間にも伝わって来る温もり。
不意に目の奥が熱くなり、ディアッカはミリアリアに擦り寄るようにしてその衝動をやり過ごす。
この温もりに泣きたくなった、なんて。絶対に知られたくない。
朝までの短い眠りに落ちる寸前、ディアッカは甘い香りがする温かい体にもう一度擦り寄った。
 
 
 
 
 
 
 
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すっごい突発話です(1時間かからず書いた・笑)。
なんだか甘えっ子で弱い部分を曝け出すディアッカと、それを(無意識でも)
優しく包み込むミリアリアが書きたくて(●´艸`)
無印後、二人がまだ付合っていた当時のお話、と言う事で(曖昧だな・笑)

長編の結構重要な部分を書いているんですが、まぁ悩みまくりで;;
つい横道にそれたら、すいすいと指が動き出来上がったこちらのお話。
校正もままならない拙さ全開の文章ですが、甘い(?)ディアミリをお楽しみ
頂ければ幸いです。

お待たせしまくりの長編も頑張ります。
いつもサイトに遊びに来て頂き、本当にありがとうございます!

 

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2015,6,22up

お題配布元「確かに恋だった」