デイジー

 

 

 

 
「コレ。やるよ。」
 
 
ちょっとだけ重みのある、可憐なラッピングを施された、箱。
ぽとりと掌に落とされたそれを、ミリアリアは泣き過ぎて腫れぼったくなってしまった瞳で不思議そうに見下ろした。
 
 
休暇をもぎ取りオーブへやって来たディアッカと言い争いになり喧嘩別れをし、サイの助力もあってやっと仲直りが出来た二人は、オーブの使節団のせいでプラントへの最終便に乗れなかったと言うディアッカが勢いでリザーブした翌日分のチケットのキャンセル手続きをした後、その足でディアッカの宿泊するホテルの部屋にいた。
元々一緒に過ごすつもりでバッグの中に色々と用意をしていたミリアリアだったので、その事自体は問題ない、のだが。
 
 
 
この箱は、なに?
 
 
 
「え、と…。」
 
今日って、何か記念日だったっけ?
ミリアリアの誕生日は2月なので、とっくに過ぎ去っている。
というより、戦争が終わって再会した時点で、ミリアリアどころかディアッカの誕生日すら過ぎてしまっていたはずだ。
そして今は9月の終わり。
ハロウィンは10月末だし、そもそも必要なのはプレゼントではなくお菓子。
そして、プレゼントの出番であろうクリスマスは年末だ。
 
 
「……あのさ。開けてみようとか、思わない訳?」
「へ?あ、うん。でもこれ…私、に?」
「他人にやるもんをお前に渡す理由がねぇだろ。」
 
 
くすり、と少しだけ呆れたように笑うディアッカ。
やっと掌に乗せられた箱が自分に送られたものだと納得したミリアリアは、そっとリボンに手をかけた。
 
 
 
「なに、これ……かわいい!!」
 
 
 
少しだけまだ腫れた碧い瞳を丸くし、素直に喜びの声を上げるミリアリアを眺め、ディアッカは嬉しそうに微笑む。
箱から出て来たのはーーーボトルに特徴のある、オー・デ・トワレだった。
 
「プラントでたまたま見つけてさ。香りも俺の好みだったし、何よりこのボトルがお前にすげぇ似合うって思って。
…もしかしてこういう香り、苦手?」
 
ミリアリアはボトルの蓋を取り、そっと顔を近づける。
爽やかで甘い、フローラルフルーティーの香りに、ミリアリアの心が躍った。
 
「いい香り…」
 
そしてディアッカの見立て通り、そのトワレのボトルには大きな特徴があった。
蓋の部分が、かわいらしい花のモチーフで埋め尽くされているのだ。
まるで花束のようなそのデザインは、まさにミリアリアの理想そのもののかわいらしさで。
ディアッカから声をかけられるまで、ミリアリアはうっとりとその香りやボトルのデザインを堪能していた。
 
 
「ミーリィ?俺の話聞いてる?」
笑いを含んだディアッカの声に、ミリアリアははっと我に返った。
 
 
「ご、ごめん!その…あんまりにもかわいくて、うっとりしちゃって…」
「気に入った?」
「…うん。香りもボトルも、とってもかわいくて…」
「ん。そっか。なら良かった。ほんとは一緒にいる時に買ってやりたかったんだけどさ。
あんまりプラントじゃ手に入らないシリーズらしくて、気付いたら包んでもらってた。」
 
 
その様子を想像し、ミリアリアはついくすくすと笑ってしまった。
「お前なぁ…」
「ふふ、ごめんね。でも、どうして急に?あの、誕生日とかだったら、もうとっくに…」
「……だからだよ。」
「へ?」
きし、とソファが軋み、ミリアリアの隣にディアッカが腰掛ける。
 
 
 
「今年のお前の誕生日…俺、軍事裁判が終わったばっかでさ。やっと軍に復帰して、軍服も環境も変わって、とてもじゃないけど地球にいるお前に何もしてやれなかった。」
 
 
 
肩を抱かれ、茶色の跳ね毛に指を絡ませながらぽつりぽつりと語りだしたディアッカの言葉に、ミリアリアは目を丸くする。
 
 
「だ、だってそれは仕方ないじゃない!私だってあんたの誕生日、何にもしてあげられなかったわ。」
「そうかもしれねぇけど!お前の17歳の誕生日、一緒に祝えなかったのが悔しかった。
お互いの事が好きって分かって、初めて二人で迎える記念日だったのにさ。」
「デイアッカ…」
 
 
離れている間、不安で泣いてばかりだった自分。
それなのにディアッカはこんなにも自分の事を考えてくれていたんだ、と実感し、ミリアリアの中にディアッカへの愛しさが溢れた。
 
 
「だからそれ。遅くなっちまったけど、17歳の誕生日プレゼント。俺の選んだ香りを、俺と離れている間もお前がつけていてくれるって思ったら、何かすげぇ嬉しくない?」
 
 
そう言って無邪気に笑うディアッカを、ミリアリアはそっと見上げた。
「…ありがとう、ディアッカ。ごめんね、私、そう言う所気が回らなくて何にも…」
「そんな事ねぇよ。プレゼントなら、もうもらってる。」
「え?」
ディアッカはミリアリアの頭に手を添え、そっと自分の方に引き寄せる。
いつもなら恥ずかしがるミリアリアも、やっと仲直りが出来た安心感からかされるがままに体をすり寄せた。
 
 
 
「俺は、お前の“ハジメテ”をもらっただろ?あれが、お前から俺への誕生日プレゼント、って俺は勝手に思ってる。ダメか?」
 
 
 
その言葉がミリアリアの脳に染み渡り、意味を理解するまでに数秒の時間を要し。
「ばっ…な、ななな…」
ぽん!と火がついたように真っ赤になるミリアリアを、ディアッカは優しく抱き締めた。
 
「ダメ?」
「…………だめじゃ、ない、けど」
 
 
ーーーダメじゃないけど!いちいち恥ずかしすぎるんだってば!!
 
 
心の中だけでそう悪態をつくミリアリアだったが、嬉しそうににこにこと
笑うディアッカの笑顔の前に、その想いはあっという間に霧散した。
そしてふと、ある事を思い出したミリアリアはディアッカの腕から離れ、バッグの中をごそごそと漁ったあとソファへと駆け戻る。
 
「…はい。コレ。」
「…あ?」
 
ディアッカの手に乗せられたのは、かわいらしく包まれた菓子。
 
 
「…最近オーブに新しく出来たチョコレート専門店の限定チョコ。一緒に食べようと思って買っておいたの。
あんた、甘いの苦手とか言ってたでしょ?だから、お店で一番カカオの成分が多い苦いのにしといたわ。
……後付けだけど、バレンタイン、の…チョコね、コレ。」
「…はい?」
「私だって、何かあんたにあげたいんだもん!あんたの言う通りなら、私だって初めてのバレンタインのチョコ、あげられなかったわ。
だからいいじゃない、トワレに比べたらちっぽけかもしれないけど、季節外れのバレンタインだと思って…受け取り、なさいよ…」
 
 
ぽかんとミリアリアを見下ろしていたディアッカは、ぷ、と吹き出す。
こんな時にも、負けず嫌いなミリアリア。
どうしてこんなにも、俺はこいつの事が愛おしいんだろう。
 
 
「サンキュ、ミリィ。バレンタインなんて、想像もしてなかったからすげぇ嬉しい。」
「…私も、ほんとにありがとう。貰ったの、生まれて初めてよ?」
 
 
耳まで真っ赤に染めたミリアリアの言葉に、ディアッカの理性はほんの僅かを残してどこへとも無く消え去る。
 
「このトワレの名前さ、“デイジー”って言うんだ。それも、お前にぴったりだと思った。」
「…だから、ボトルにこんなにたくさんお花がついてるのね。」
 
幸せそうな表情で半年以上遅れの誕生日プレゼントを手に取るミリアリアは、自分が出会ったどんな女性よりもかわいくて、綺麗だ、とディアッカは思った。
 
 
「これ、大切にするね。勿体なくてつけれないかもしれないけど…」
「それじゃ意味ねぇだろ?毎日つけて?ていうか、シャワー浴びたらすぐつけて?」
 
 
そう言ってディアッカは素早くミリアリアを抱き上げる。
 
「ちょ、え、え?」
「さっきダッシュしたから汗かいたし、一緒にシャワー浴びよ?」
「な、え」
「バスルームまで、落とさないようにちゃんとそれ持っとけよ?」
「…強引なんだから!もう!」
 
恨めしげに自分を見上げるミリアリア。
しかし、その小さな手はしっかりとディアッカが贈ったデイジーと言う名の花のトワレを握りしめていて。
 
抱き上げたまま、ちゅ、と唇にキスをひとつ落とすと、観念したのかミリアリアはおとなしくなる。
 
「…バスルーム、行くぞ」
「…うん」
 
この後どうなるかを嫌でも想像したミリアリアの碧い瞳が、先程までとは違う色に潤んで、恥ずかしそうにディアッカを見上げた。
 
 
 
 
翌朝、二人が抱き合って眠る乱れたベッドのシーツには、しっかりとディアッカの贈った“デイジー”の残り香が香っていた。
 
 
 
 
 
 
 
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Happy Birthday ミリアリア!!
ミリアリアお誕生日小噺です!何とか間に合いました…orz
てか、お誕生日小噺と銘打って…いいです、よね?(笑)
異論は謹んでお受け致します;;
当サイトのキーアイテムである「花のトワレ」の秘密(て程でもない?)が今回
明かされる形となりました。
やや強引にバレンタイン要素も盛り込みましたが、どうぞその辺は目を瞑って頂ければと…;;
自分の好きな香りを愛する女性に纏ってもらいたい、なんてどんだけディアッカってば
ロマンチストなんでしょうね(●´艸`)

ちなみに本作に出てくるデイジーですが、何を隠そう私が愛用している香水なのです(笑)
コレで見れるかな?ボトルも香りも大好きで、もうだいぶ長い事愛用しております。
本来ならばこっちのがミリアリアには似合うのかもしれませんが、私はやっぱりただのデイジーの方がボトル的に好みです(●´艸`)
持ち運びにはドリームのがいいのかもしれませんけどね;;
どうぞ皆様のお好きな方で妄想をお楽しみ下さいvvv

きっと他の素敵DMサイト様も、ミリアリアのお誕生日をお祝いしている事と思います。
こんなへっぽこサイトではありますが、私もその末席に加われたらと思っております!
改めて、DM大好きです。
そして、こんな私の拙いお話を楽しみにして下さる皆様の事も、本当に大好きです!!
いつも足をお運び頂き、本当に感謝しております。
応援してくれる全ての皆様、そしてDMを愛する全ての方にこのお話を捧げます!

 

 

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