未来予想図

 

 

 

 
「ミリィ!」
 
待ち合わせをしていたザフト本部近くのカフェ。
聞き慣れた夫の声にミリアリアは振り返り──少しだけ目を丸くした。
 
 
「ディアッカ…髪、切ったの?」
 
 
二度目の戦争が終わってすぐに再会した時真っ先に目が行ったのは、肩にもうすぐ届く程に伸びたディアッカの後ろ髪だった。
別れる前に比べてずいぶんと大人びて感じたのは、半分くらいこの髪型のせいなんじゃないかと思ったくらい。
もちろん似合ってない訳では断じてなかったけれど、別の人みたいだな、と内心感じた事をミリアリアは懐かしく思い出した。
 
「ああ、何となく切りたくなってさ。任務の合間に行ってきた。え、なに?変?」
そう言って頭に手をやるディアッカの後ろ髪は、初めて出会ったときと同じくらいの長さになっていた。
 
「ううん。似合ってるわよ」
 
にっこり笑ってそう答えると、ディアッカは安心したように笑顔を浮かべ、ミリアリアの正面に座るとコーヒーを注文した。
 
 
***
 
 
「なぁ、なんでいきなり待ち合わせした訳?」
久しぶりの外食の後、手を繋いでアパートへの道を歩きながら不思議そうにそう口にしたディアッカに、ミリアリアはくすりと笑った。

「…さぁ、どうしてかしらね」

季節は春へと調整され、軽装でも過ごしやすくなって来たプラント。
軍服のままのディアッカとは違い、ミリアリアは一度帰宅して着替えて来たため、薄紫の七分袖のカーディガンにオフホワイトのワンピース姿だった。
 
 
春に入籍をして、6月に結婚式をして、8月にはオーブへ降りて。
相変わらず二人の周囲は平穏なばかりではなかったが、こうしてミリアリアはディアッカと手を繋いで、同じ家へと今日も帰る。
出会った頃のディアッカは17歳。
あの頃と同じ髪型のはずなのに、今のディアッカはやけに大人に見えて。
今日は何だか少しだけ、手を繋ぐのが照れくさい。
 
 
毎晩二人で一つのベッドに入り、おやすみのキスをして手を繋いで二人は眠りにつくけれど。
そんな幸せで穏やかな時間の中で、ふとミリアリアの脳裏に描かれるのは、数年後の自分たちの姿。
相変わらず過保護で心配性で、つまらないやきもちばかり焼いて、きっとたくさん喧嘩もして、同じ数だけ仲直りして。
それでもミリアリアを何より大切にしてくれて、いつだって優しいディアッカは、その少しだけ垂れた紫の瞳を細めて幸せそうに笑っていて。
その視線の、笑顔の先にいるのは私?それとも──。
 
きっと何年経っても、ディアッカと自分はこうしておやすみのキスをするのだろう。
暑い真夏の夜でもこうしてくっついて、寒い真冬の夜は互いに暖め合いながら手を繋いで眠りにつくのだろう。
昔よりはだいぶディアッカに甘える事が出来るようになったとは自分でも思っているけれど──それでもまだ、意地っ張りとよくディアッカにからかわれる。
 
きっと何年経っても、素直になれなかったり意地を張って、ディアッカを困らせてしまうかもしれない。
それでも──こうしてずっと、ディアッカに寄り添って生きて行きたい。
 
 
「なんだよ、勿体ぶらずに言えって!」
気になりだしたら止まらないのだろう、ディアッカに詰め寄られ、思わずミリアリアはくすくすと笑ってしまった。
「家に着いたら教えてあげる。よーく考えれば、分かると思うんだけどなぁ」
少しだけ勝ち誇った顔でそう告げれば、む、と口をへの字に曲げたディアッカが真剣な顔で考え込む。
歩きながら、いくつかの答えをディアッカが口にし、はずれ!とミリアリアが笑う。
そんな事を繰り返しているうちに、二人はアパートに到着した。
 
 
「じゃあ、ヒントをあげる。今日ディアッカはどんな任務に就いてた?」
階段を昇りながら突如与えられたヒントに、ディアッカはきょとんとした顔でミリアリアを見上げる。
「へ?今日、は…停戦して一年目の式典で…」
手慣れた様子で部屋のキーを解除したミリアリアは、その言葉に答えないまま玄関を開け、先に部屋に入ると灯りをつける。
そして、くるりとディアッカを振り返った。
 
 
「そう。今日はメサイア攻防戦が終結して、戦争が終わった日。そして…私達がまた会えた日、でもあるでしょ?」
 
 
少しだけ頬を染めて、それでもまっすぐにディアッカを見つめるミリアリアの言葉に、ディアッカの心臓がどくん、と音を立てた。
そう、1年前の今日、ラクスの停戦勧告を受けた直後、AAで二人は再会して──。
そこから、また始まったのだ。二人の物語が。
 
「記念日、って程のものじゃないけど、なんとなくいつもと違うことがしたかったの。…意地悪して、ごめんね?」
 
すまなそうに上目遣いで自分を見上げるミリアリアを、ディアッカは腕を伸ばしてぎゅっと抱き締めた。
「そ、か。あれから…今日で1年、なんだ」
「うん。なんだか…すごく濃い1年だったけどね」
ミリアリアも細い腕をディアッカの背中に回し、甘えるように体をすり寄せる。
「悪い…。俺、気が回んなくて」
「やだ、そういう意味で言ったんじゃないのよ。…一年前は、こんな未来、予想もしてなくて…嬉しかった、から」
恥ずかしそうに尻つぼみになって行くミリアリアの声に、今度はディアッカがくすりと笑った。
「俺も。こうやって同じ家にミリィと帰って来れて、朝起きたらミリィが隣にいて、美味い飯作ってくれて、なんて全然予想もしてなかった」
「私だって、自分がプラントで暮らすなんて全く予想してなかったわ」

二人は顔を見合わせて、同時に微笑む。
 
 
「ずっと、一緒にいたいの。だから…しっかり、つかまえててよね?」
 
 
腕の中の宝物からの甘いお強請りに、ディアッカは破顔し、「当たり前だろ」と頷いた。
ミリアリアは嬉しそうに微笑み、デイアッカの首に腕をするりと回すと、背伸びをして触れるだけのキスを贈る。
「疲れたでしょ?お風呂入って、寝よう?」
いつもと同じ日常。
それでも、今日はいつもと少しだけ違う、小さな二人の記念日。
今日もまたきっと、二人は一つのベッドに入り、おやすみのキスをして手を繋いで眠るのだろう。
眠りにつくまでの短い時間、ミリアリアはまたきっと、二人の未来予想図を頭に描いて幸せを噛み締める。
それはディアッカには内緒の、ミリアリアの大好きな時間。
 
 
きっと何年経っても、素直になれなくて意地を張って、ディアッカを困らせてしまうかもしれない。
それでも──こうしてずっとあなたに恋をしながら、寄り添って生きて行きたいから。
 
「ミリィ、愛してる」
 
ミリアリアが一番好きな、ディアッカの声。
心の底から安心出来る『愛してる』というその優しい声と言葉。
ミリアリアはふわりと微笑み、ゆっくりと落ちて来たディアッカの唇を、目を閉じて受け止めた。
 
 
 
 
 
 
 
007

言わずと知れた名曲、ドリ◯ムの『未来予想図』をテーマに小噺を書いてみました!
二人の物語が再び始まった、小さな記念日をしっかりと覚えていたミリアリア。
ミリアリアの描く未来予想図でディアッカが見ているのは、さて、誰なんでしょうね…。
ちなみに今回、年表を作るにあたり一部文章を改稿致しました;;
お話自体には影響ありませんが、あしからずご了承下さい!

 

 

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2015,1,15拍手up

2015,2,15改稿・up