恋に溺れる

 

 

 

 
 
※この作品は、サイト本編「手を繋いで」とは別の設定の物語となります。
運命終了直後、AAがプラントに降りた、という設定です。
 
 
 
 
 

「会いたかった」
 
 
そう言うなりぎゅっと自分を抱き締める力強いディアッカの腕。
抵抗する間もなかったミリアリアは一瞬体を強張らせ、咄嗟にその腕から逃れようとしてーーーふっと、体の力を抜いた。
 

 
二度目の戦争が終わって、AAは艦体修理の為プラントへと入港した。
ラクスやキラから聞いて、目の前の男とその親友が土壇場でエターナルの援護に回ってくれた事も知っていた。
でもーーー実際会う事はない、と思っていた。
今さら合わせる顔もなかったし、何よりこの停戦のドタバタで激務を極めているであろうザフトの精鋭部隊の一員である彼と簡単に会えるだなんて思えなかったから。
だから今もこうして、留守番を買って出てAAのブリッジに一人残っていたと言うのに。
つい最近まで敵艦だったはずのAAのブリッジに突然現れたディアッカにきつく抱き締められながら、ミリアリアはどこかぼんやりとその懐かしい声と感触に浸っていた。
 
 
嫌いになった訳ではなかった。
本当の事を言えば、忘れた事なんてなかった。
顔が見たくて、声が聞きたくて泣いた日は数知れない。
また戦争が始まって、最前線にいるであろう彼の事が心配で、それでも今更連絡も取れなくて。
どうか無事で、と願いながら、自分もまた大天使の艦に舞い戻り、彼と同じように最前線に出た。
自分の出来ることをしようと懸命に努力し、自分なりに戦った。
 
 
彼の無事を知り、心からほっとした。
キラには、「ミリィのそんな笑顔、久しぶりに見た」と言われた。
笑ったつもりなんてなかったのに、自分はいつの間にか微笑んでいたらしい。
それも仕方ない事だ。だって、嬉しかったのだから。
 
 
「良かった。あんたがちゃんと生きててくれて。」
 
 
閉じ込められた腕の中でぽつりとそう口にすると、びくん、とディアッカの体が揺れた。
 
 
「ずっと心配だったの。でも今更連絡も出来なくて、どうか無事でいますように、って祈るしかなかった。」
「ミリ…」
「メサイアでも、そう。あんな状況でも、頭のどこかであんたの事考えてた。
あんたがどこにいるかなんて知らなかったけど、同じ場所にきっといる、って思ってたわ。」
「…俺も、そうだった。」
 
 
回された腕がそっと位置を変え、大きな手がミリアリアの柔らかい髪をゆっくりと撫でる。
 
 
「エターナルを援護しながら、頭ん中、お前ばっかだった。
AAがいる、って聞いて、確証もないのにお前もきっと乗ってる、って思ってた。」
「ばかね…。だから被弾なんてするのよ。」
「…知ってたんだ?」
「キラに聞いたわ。ラクスにも。やっぱりあんた、詰めが甘いわ。」
「ひっでぇ言い草…」
「だってあんたがいなくなったら、困るもの。」
 
 
髪を撫でられるまま胸にぎゅ、と頬をくっつけたミリアリアが発した言葉に、ディアッカは息を飲む。
 
 
「戦争が終わったら…意地を張って、ひどい言葉であんたを傷つけてしまった事をちゃんと謝って。
それで、私の本当の想いを伝えなきゃって、AAに戻る時に思った。
だから、その前にあんたがいなくなっちゃったら、困るの。嫌、なの。」
「本当の…想い?」
 
 
ミリアリアはだらんと下げっぱなしだった腕を上げ、ディアッカの胸をそっと押して彼から離れた。
何度も夢に見た、アメジストのような紫の瞳を見上げたミリアリアの表情は、波紋一つない湖のように穏やかで。
自分の知っているミリアリアは、こんな静かで穏やかな表情をする女だっただろうかと内心驚き、ディアッカはただその碧い瞳を見下ろす。
 
 
「心配して、くれてたんだよね?あの時も、今も。それなのに、ひどい言葉で傷つけて…ごめんなさい。
あとね。私、ディアッカの事が好きよ。…悔しいくらい、好き。」
 
 
まっすぐに目を見ながら告げた言葉を、ディアッカは目を丸くして受け止める。
こんなに丸くなったディアッカの目を、ミリアリアは初めて見たような気がした。
 
 
「…抱き締めて、いい?ってか、そうさせて?」
 
 
いきなり現れて、ついさっきまで人のことをあんなにきつく抱き締めていたくせに、なぜこの男は今更そんな確認をするのだろう。
いつもは強引なくせに、変な所で怖じ気づく癖は昔のままだ。
 
 
「気のすむまで、好きにしたらいいじゃな…きゃ!」
 
 
発した言葉は途中で消えーーミリアリアは再びディアッカの腕の中にいた。
 
 
「イザークに、ひどい顔してるって言われてさ。とっとと行って来いって叩き出された。
…俺が恋煩いとか、笑う?」
「…そうでもないわ。私だって、人の事言えないもの。」
「お互い様だった、って解釈していいの?それ。」
「……そうね。」
「…ねぇ、何でお前、そんな顔してんの?」
「え?」
 
 
今度はミリアリアの肩が、びくん、と揺れた。
 
 
「俺の知ってるミリアリアは、泣き虫で意地っ張りで、弱いくせに負けず嫌いでさ。」
「…悪かったわね」
「でも、本当は甘えたがりで、俺の知ってる誰よりも優しくて、泣きながらでも前を向ける強さを持ってた。」
「……っ」
 
 
思わずがばっと顔を上げ、自分を抱き締める男を見上げる。
その紫の瞳は、柔らかく細められていて。
ディアッカは、見た事もないような優しい笑顔でミリアリアを見下ろしていた。
 
 
「優しいお前が戦場カメラマンなんて無理に決まってる。
辛い思いをしにわざわざ危険な場所に行くなんて、とても認められなかった。
俺は傍にいて守ってやれないのに、なんで、って悔しくて、さ。
だけどお前は…頑張ってたんだよな。自分の出来る事を、ずっと。
でも、もう大丈夫だからさ。だから…そんな顔、すんな。」
 
 
 
 
一生懸命、我慢してたのに。
会えない間、泣くのはひとりの時だけ、と決めていた。
大好きだった彼の手を離したのは自分なのだから、甘えてはいけない。
ただ、ひとりで泣く事だけは、自分に許した。
そうしなければきっと、ミリアリアは壊れてしまっていただろうから。
 
 
「…自分に対する、けじめのつもり、だったのに…なんで、そう言う事言うのよ、あんたは…」
「だって、甘えて欲しいから。離れてた間の分も、これからもずっと。」
「…甘やかし、過ぎよ。」
「いいじゃん別に。どんなお前も俺は好きだけどさ。ひとりで頑張らなくてもいいし、無理しなくていいんだぜ?
そうやって泣いたっていい。いくらでも俺が傍にいてやるから。…まぁ、すぐに、ってのは難しいけどさ。」
 
 
あっという間に浮かび上がり、そしてぽろぽろと零れて行くミリアリアの涙を、ディアッカはそっと唇で吸い取った。
ミリアリアは黙ってされるままになり、止まらなくなってしまった涙をぽろぽろと零し続ける。
 
 
「がまん…して、たのに…ばか…」
「んー、まぁ、自分でもそう思う。お前の事好きすぎて、俺、馬鹿みたいだなって。」
「っく、だから、イザークさんに…ひどい顔とか、言われちゃうのよ…」
「…いーの。馬鹿がつくくらい、俺だってお前の事ずっと好きだったんだからさ。」
 
 
その言葉に、ミリアリアの腕がゆっくりと上がり、ディアッカの緑色の軍服の背中に回される。
それに気付いたディアッカは、蕩けるような笑みを浮かべて。
ミリアリアの耳元で、ずっと聞きたかった言葉を強請った。
 
 
 

「なぁ、もう一回好きって言って?」
 
 
 

ずっと聞きたかった、ディアッカの甘くて優しい声。あたたかい温もり。
ミリアリアは涙に濡れた瞳でディアッカをじっと見つめ、小さな声でそのお強請りに応えた。
 
 
「ディアッカ…好き、よ。…私も、会いたかった。」
 
 
次の瞬間、ディアッカの唇がその言葉を飲み込むようにミリアリアのそれに重ねられた。
慈しむように、角度を変え何回も重ねられる唇の熱さに、ミリアリアはそっと目を閉じてされるがままになる。
そして、ディアッカの背中に回した腕にありったけの力を込め、その逞しい体を抱き締めた。
閉じた瞳から、またぽろり、と涙が零れ、頬を伝い落ちる。
 
 
「もう、逃がさない。…ミリィ、愛してる」
 
 
キスの合間に囁かれた愛の言葉に、ミリアリアは掠れた小さな声で、同じ言葉を愛しい男に伝えた。
 
 
 
 
 
 
 
007

拍手小噺22話目は、一体これはどこのDM?!な展開となりました(笑)
たまには、違うシチュエーションってのもアリかな?と思いまして;;
突然の別設定に驚かれた方、申し訳ありませんでした。
えーと、でもまぁ、こんな再会があっても良いのではないかと(●´艸`)
ああ、らぶらぶな二人はやっぱりイイ!(笑)

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2014,12,22拍手up

2015,1,15up

(お題配布元「確かに恋だった」)