メリークリスマス

 

 

 

 
柔らかな光が眩しくて、ミリアリアは細く目を開けた。
視線の先では、バスローブ姿のディアッカがカーテンを開けている。
…昨日あれだけしたのに、どうしていつも私より早起きなのかしら…。
ぼんやりとそんな事を考えていたミリアリアだったが、いつの間にかベッドに戻って来ていたディアッカから優しく唇を塞がれる。
 
「おはよ。メリークリスマス、ミリィ」
「おは、よう…ディアッカ。メリー…クリスマス」
 
喘ぎ過ぎて掠れてしまった声が恥ずかしくて、ミリアリアの返事は自然と小さなものになる。
「あと1時間したらルームサービス来るから。それまでにシャワーでも浴びて来たら?」
「ん…そうね」
くしゃり、とディアッカの大きな手に髪を撫でられ、ミリアリアは怠い身体を叱咤して起き上がった。
と、左の手首に違和感を感じてそこに目を落とし──ミリアリアの目が大きく見開かれる。
そこには、いつのまにか華奢でかわいらしい時計が嵌められていた。
 
 
 
「とけ、い…?」
 
 
 
きょとん、と手首を見下ろしていたミリアリアに、ディアッカはふわりと笑って振り返る。
 
「クリスマスプレゼント。大天使の艦に乗ってたお前にぴったりだろ?」
「大天使の…艦?」
 
首を傾げたミリアリアは時計の文字盤に目を落とし──「あ…」と思わず声を発していた。
 
 
小さなフェイスの色はピンクがかったパールホワイト。
そして、右下にはピンクゴールドの天使が矢をつがえている様子が描かれていた。
放たれているのは、これまたかわいらしい小さなハート。
デザインだけなら子供っぽいものかもしれないが、時計全体が品のよいシルバーとピンクゴールドで彩られており、小振りながら洗練されたデザインとなっている。
 
 
「お前もさ。俺がAAにいた頃の時計、まだ使ってんだろ」
「え…どうして…知ってるの?」
 
 
あれはミリアリアにとって大切な、そしてほろ苦い思い出が詰まった時計だった。
だが普段、勤務中は身につけていたものの自宅にいる時やオフの時は壊してしまわないようきちんとチェストにしまっていたのに。
 
「お前とたまに任務で一緒になるだろ?そん時見かけて、あれ?って思ってさ。まだ持っててくれてるなんて思わなかったから…びっくりしたし、すげぇ嬉しかった」
 
ディアッカの観察眼に驚きながらも、ミリアリアは眠っている間に嵌められた新しい時計にそっと指を滑らせた。
「かわいい…こんな時計、初めて見たわ。ありがとうディアッカ。大事にするね」
「ちょっとデザインが子供っぽいかなって思ったんだけどさ。でも、ホントにお前にぴったりだなって思ったんだ。喜んでくれて良かった」
嬉しそうににこにこと笑って時計を眺めているミリアリアに、ディアッカも自然と笑顔になる。
「ディアッカ、私のバッグ、取ってもらってもいい?」
「あ?ああ、これ?」
バスローブを羽織ってベッドにちょこんと腰掛けたミリアリアはバッグを受け取ると、中から細長い包みを取り出した。
 
 
「…メリークリスマス、ディアッカ」
 
 
両手で差し出された包みを、ディアッカは目を丸くして眺め…そっと小さな手からそれを受け取った。
「…開けていい?」
「うん。もちろん」
丁寧に包装された包みを、ディアッカは器用に解いて行く。
そして、中から出て来た箱には──万年筆が納められていた。
 
「…これ…」
「壊れちゃったんでしょ?ずっと使ってたお気に入りの万年筆」
 
ディアッカは無頓着なようで、持ち物に何かとこだわりがあった。
戦争が終わり、書類に埋もれる毎日を送るようになってからはアカデミー時代から愛用していた万年筆を使っていたのだが、寿命が来てしまったのかとうとうインクが出なくなってしまって。
メーカーに問い合わせても既に廃盤と言われてしまい、なかなか気に入るものを見つけられずにいたのだった。
 
 
「前にちょっとだけその事話してたでしょ?それで、イザークとシホさんにメーカーを聞いて、地球から取り寄せたの」
「へ?…地球、から?」
 
 
ディアッカのリアクションが嬉しかったのだろう。
ミリアリアは零れんばかりの笑みを浮かべた。
 
「こんなペーパーレスの時代でも、物書きやジャーナリストは意外と自分で字を書く事が多いのよ?それで、プラントには無くてももしかして地球なら…って思って、調べてみたの。そしたら、ビンゴ!だったってわけ」
 
ディアッカは手の中の万年筆に目を落とした。
もう二度と手に入らないと思っていたそれは、やはりしっくりと自分の手に馴染む。
 
 
「今年のプレゼント、お互いお仕事中でも持っていられるものだなんて…すごい素敵な偶然よね?」
 
 
そう言って嬉しそうに笑うミリアリアを、ディアッカはぎゅっと抱き締めた。
 
「何度でも言うけどさ。ホントにお前って…俺が欲しい時に、欲しいものをくれるんだよな。サンキュ、ミリィ。俺もこれ、大切にする」
「…うん。私も、ありがとう…」
 
ディアッカの背中に腕を回したミリアリアが、ディアッカを見上げまたにっこりと笑った。
 
 
「…朝食、もう一時間遅らせてもらう?」
 
 
その意味を理解したミリアリアの顔が、ぱぁっと赤くなった。
「き、昨日あれだけしておいて…これ以上したら、立てなくなっちゃうわよ!」
腕の中であたふたとするミリアリアの姿に、ディアッカは思わず吹き出した。
「はいはい。またいたずらされちゃたまんねーもんな。…でも、キスはいいだろ?」
「う…」
恥ずかしそうに俯いてしまったミリアリアの顎に手をかけ、ディアッカはその顔を自分の方に向かせる。
 
 
「愛してる」
 
 
短い言葉に込められた、万感の想い。
それをしっかりと感じ取ったミリアリアはまたふわりと微笑み、そっと目を閉じるとディアッカの柔らかい唇をしっかりと受け止めたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
c1

7777hit、ありがとうございます!!
何とか今年中に間に合った…;;
2014クリスマス小噺「初夜」の後日談です!
短くてごめんなさい(大汗
お話の中に出て来た“いたずら”や“時計”のエピソードですが、
こちらも近いうちにup致します(●´艸`)

なかなか筆が進みませんが、もうすぐ9999hit,そして記念すべき10000hit!!
今からドキドキしております(●´艸`)
皆様が足をお運び下さっていることに、何よりの幸せと創作意欲を頂いています。
本当にありがとうございます!
今後とも、当サイトをどうぞよろしくお願い致します!!

 

 

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2014,12,30up

2017,12,29一部改稿