5, 彩られた夜道

 

 

 

 
綺麗に飾り付けられた店内から外に出ると途端に冷たい風が吹き付け、ミリアリアは慌てて持参していたストールを首に巻き付けた。
 
「寒い?やっぱエアカーで来れば良かったな」
 
その様子を見ていたディアッカが、そっとミリアリアの手を取り、自分の羽織っているコートのポケットに導く。
そのままポケットの中で指が絡められると、じんわりと温もりが伝わって来て、ミリアリアは笑顔でディアッカを見上げた。
 
「大丈夫よ。それに、プラントのハロウィン、ちゃんと見るの初めてだもの。家までだってそんなに遠くないし、せっかくだから歩きたいな」
「地球とそんなに変わんなくねぇ?」
「そうね…でも、オーブよりはやっぱり派手よね。ヨーロッパ辺りはすごかったもの。そこらじゅうカボチャだらけで」
 
今日は、10月31日。
ディアッカとミリアリアはそれぞれ仕事があったのだが、せっかく結婚して初めて二人で迎えるハロウィンという事もあり、外で待ち合わせしてディアッカおすすめの店でディナーを堪能した。
そして、ハロウィン仕様に装飾されたプラントの街が見たい、と言うミリアリアの願いを叶えるべく、こうして二人で手を繋いでゆっくりと帰途についていたのだ。
 
「パーティーもいいけど…私にはこうしてのんびりしてる方が合ってるのよね、やっぱり」
 
家柄のせいもあり、幼い頃から数えきれないほどのパーティーに出席して来たディアッカにとって、ミリアリアのその言葉は何だかとても新鮮で。
 
「俺は、ミリィと一緒なら何でもいい、かな」
 
ぎゅ、とポケットの中の手に力を込めてそう告げると、ミリアリアは嬉しそうににっこりと笑った。
 
 
「そういえばシホさん…大丈夫だったかしら?」
 
 
ディアッカと待ち合わせをしている最中にかかって来たシホからの電話。
程なくして現れたディアッカに事の顛末を説明し、もしかしてまた連絡があるかも、と話していたのだが、あれ以来ミリアリアの携帯は沈黙したままだった。
「あいつらは大丈夫だって。ああ見えてイザークのやつ、馬鹿みたいにシホに骨抜きなんだからさ」
人の事が言えた義理ではないはずのディアッカの言葉に、ミリアリアもそうね、と頷いた。
 
「アスランとカガリとは違う意味でもどかしい二人だけど…それでも、まだ安心して見ていられるものね」
「あー…姫さんもあんなだしなぁ」
「あら、カガリはそれなりに成長したと思うわよ?問題はアスランだと思うわ」
「甲斐性なしの鈍感男?」
 
かつてミリアリアがアスランを評した言葉を思い出し、ディアッカはくすくすと笑う。
「あの頃よりは多少マシになった、と信じたいわね…。でないとカガリが報われないわ」
苦笑しながら溜息をつくミリアリアを、ディアッカは愛おしげに眺めた。
 
 
 
「う、わ…。すごいイルミネーション!」
角を曲がった途端に現れたオレンジ色の光景に、ミリアリアは思わず声を上げる。
「ああ、ここ毎年こんな感じなんだ。クリスマスが近づくとまた違ったイルミネーションに変わるぜ?」
「…そっか。総領事館から見えてたの、ここだったのね…」
「え?」
突然よく分からない事を口にしたミリアリアに、ディアッカは訝しげな表情になった。
「あ、え…と。うん、見えるのよ、領事館の窓から」
どこか言葉を濁しがちなミリアリアの顔を、ディアッカはじっと覗き込む。
 
「なに?」
「なに、って…」
「なんか俺に隠してない?ミリィ」
「…言っても、気にしない?」
「は?」
 
イルミネーションのちょうど真下で、二人は歩みを止める。
ミリアリアは、眩しげな表情でディアッカを見上げ、口を開いた。
 
 
「婚約発表前にディアッカが記憶を無くした時、私、領事館にいたでしょう?その頃、仕事が終わると、部屋からよく外を見てたの。クリスマスの時期だったから、イルミネーションがとっても綺麗で…。ディアッカ、どうしてるかなぁなんて考えながら毎日ぼんやりその光を眺めてた」
 
 
ディアッカは、ミリアリアを見下ろしたまま言葉を失う。
それは、昨年末の出来事。
事故で記憶を失ったディアッカの働いた暴挙によって、領事館へと居を移したミリアリア。
辛い思いをさせてしまっていたあんな時にも、ミリアリアは自分の事を想っていてくれたのだ、と知り、ディアッカの胸がじんわりと温かいもので満たされて行った。
 
「きゃ…」
 
不意に強く引き寄せられ、ミリアリアの足がもつれる。
ディアッカはポケットに入れた手を取り出し、ミリアリアを引き寄せるとそっと唇を重ねた。
「ちょ…こんなとこで…」
途端に顔を真っ赤にするミリアリアの髪にそっと指を絡ませながら、ディアッカはオレンジに輝く光のかたまりを見上げた。
 
 
「アプリリウスに来て何年にもなるけどさ。俺、ここのイルミネーションこうやってちゃんと見たの、初めてなんだ」
「…え?」
 
 
ミリアリアが目を丸くする。
自分と出会うまで、女性関係が派手だったらしい、ディアッカ。
それなのに、こんなあからさまなデートスポットに来た事が無いなんて、にわかには信じられなかったからだ。
 
「マジだって。来たばっかの時はアカデミーに行ってただろ?一応門限もあったしさ。んで、戦時中はずっと宇宙にいた。一度目の大戦が終わってプラントに戻って来た時だって、なんだかんだ忙しかったからさ。それに、この時期わざわざ歩いてここに来たがる女もいなかった」
 
ディアッカが自分から過去の女性遍歴について語るのは初めてで。
ミリアリアは黙って次の言葉を待った。
 
「二度目の大戦でも俺たちジュール隊は宇宙で防衛任務に就いてた。んで、戦争が終わってお前と再会して、お前をここに…プラントに連れて来た。
それから今までだって、いろんな事があったし、なかなか外で食事なんてしねぇじゃん?ミリィのメシ、その辺の店よりよっぽど俺好みだし美味いし」
 
自分の料理を褒められ、ミリアリアは照れくさそうに俯く。
「…そんなこと、無いと思うけど…」
「だから、さ」
「え?」
不意に今までと口調が変わり、ミリアリアはディアッカを見上げる。
そこには、紫の瞳を優しげに細め、蕩けそうな笑顔で笑うディアッカがいた。
 
 
「ミリィに言われるまで、このイルミネーションがこんなに綺麗だったなんて知らなかった。通りすがりに見て存在だけは知ってたけどさ。だから…初めてこれを一緒にちゃんと見れた相手がお前で、すげぇ嬉しい」
 
 
ミリアリアはぽかん、とディアッカの顔を見上げ。
ふわりと笑って背伸びをすると、ディアッカの唇にそっと自らの唇を合わせた。
数瞬後、ミリアリアが閉じていた碧い瞳を開くと、そこには驚き顔のディアッカ。
「ミリ…」
いつもなら、外で抱き締めるだけでも怒るはずの愛しい妻の行為に、今度はディアッカがぽかんとする。
 
 
「…わたしも、嬉しい。こうして一緒にいられるだけで、嬉しいの」
 
 
今でもたまに信じられない。
最初は敵同士だったはずの二人が、こうして愛し合って一緒にいるなんて。
家柄も良くて、抜きん出て優秀なコーディネイターで、どんな女性でも選べるはずのディアッカが、平凡なナチュラルであるミリアリアを選び、これほどまでに大切にしてくれるなんて。
お返しとばかりにディアッカの唇がそっと耳元に落とされ、くすぐったさにミリアリアは身を縮める。
 
 
「Trick or Treat」
 
 
甘い声でそっと囁かれた、ハロウィンの呪文。
ミリアリアはくすりと笑って、小さな声で返事をした。
 
「お菓子はあげないわ」
「…なんで?」
「悪戯されたい気分だから」
「…ミリアリアさん、酔ってる?」
「……やっぱり、お菓子買って帰りましょ」
 
途端にすたすたとミリアリアは歩き出し、ディアッカは慌ててその後ろ姿を追いかける。
「うそです!冗談だってば!おい、ミリィ!」
「ほんっと、肝心な時に鈍感よね、ディアッカって!もういいわよ!」
せっかく幸せな気持ちだったのに!台無しじゃない!!
内心でそう毒づくミリアリアを、今度は後ろから伸ばされた長い腕がぎゅっと絡めとって抱き締めた。
 
 
「悪かったって。……帰ったらたっぷり悪戯してやるから、それで許して?」
「………ばか」
 
 
その言葉の意味を理解したミリアリアの頬が、今日一番と言っていいほど赤く染まる。
「ほら、手また冷たくなるぞ。貸せよ」
ディアッカの温かい手が、ミリアリアの手を包んでポケットに導く。
──こうやって、いつも結局ディアッカにのペースに乗せられちゃうのよね。
それは、かつてAAで二人が出会った頃から変わらない。
でも、それも悪くない、とミリアリアは思い、再びポケットの中で絡められた指にきゅっと力を込めた。
 
 
 
 
 
 
 
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最後はディアミリで締めてみました、ハロウィンお題@2014!
いかがでしたでしょうか?
お気に召したお話がひとつでもあれば良いのですが…;;
未来の設定を盛り込んでみたり、オールキャラ出演にしてみたりと今回は
いつもと違った形で楽しませて頂きました!
最後のディアミリ、何だかグダグダだったかなぁ、と不安なのですが、お題4と5は
同じ時間軸で4がイザシホver,5がディアミリver,と思って頂ければ幸いです。
補足ですが、5に「心を重ねて」のエピソードを織り交ぜたのは、あの時してしまった事に
負い目を感じ、散々葛藤して迷っていたディアッカの心の成長を描きたかったからです。
美味く表現出来たか、説明不足で自信が無いのですが;;
文章って難しいですねorz今後も精進致します。

みなさんは、どのようなハロウィンをお過ごしでしょうか?
どうか素敵な一日になりますように!!

最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
いつも当サイトを応援して下さる全ての方々に、こちらのお話達を捧げます!
Happy Halloween(*^^)/。・:*:・°★,。・:*:・°☆

 

 

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2014,10,31up

配布元 お題配布サイト「TOY」