曖昧すぎて、壊れやすくて

 

 

 

 

「よ、何やってんの?こんなトコでさ」
エターナルの展望デッキで、アスランは意外な声に振り返った。
 
「ディアッカこそ、どうしたんだ?珍しいな、こんなとこにいるなんて」
 
モルゲンレーテのジャンパーをラフに羽織ったディアッカは、癖のある豪奢な金髪をかきあげ、微笑んだ。
 
 
 
「明後日、イザークが迎えにくる。…んで、プラントに戻る」
こうして二人、並んで星を見たのは戦時中。
メンデルでイザークと再会し、ヴェサリウスが沈んだ頃の事だった。
 
「そう、か」
「お前はオーブに行くんだろ?姫さんと一緒に」
 
からかうようなディアッカの言葉に、アスランは物憂げに微笑んだ。
「父のしたことを考えたら、ザラの名を持つ俺はそう簡単にあっちには戻れないさ」
「だから?名前変えて姫さんと一緒にオーブで生きてくってわけ?」
「ディアッカ…」
いつもと同じ皮肉げな口調。
しかしアスランは、ディアッカの様子にどこか違和感を感じた。
 
 
「ディアッカは…いいのか?」
「…あ?」
遠慮がちな問いかけに、ディアッカはアスランを振り向いた。
「いや。その…彼女の、事」
「──堅物のお前に、まさかそこ突っ込まれるとはねぇ…」
はぁぁ、と溜息をついてその場にしゃがみ込むディアッカに、アスランは目を丸くした。
「お、おい、ディアッカ?」
「……なぁ。お前姫さんとどこまでシタ?」
項垂れたままのディアッカが発した言葉の意味を理解し、アスランの顔があっという間に赤くなる。
 
「お、お前っ!なに、いきなり…!」
「別に姫さんに聞いてもいいんだぜ?でもお前の顔を立てて、今ここで聞いてやってんの!…で、どうなんだよ?」
 
しゃがんだままちらり、とアスランを見れば、真っ赤になって口をぱくぱくさせている。
…こりゃ、最後どころか何もねぇな。
冷静にそう判断したディアッカは、再び項垂れ灰色の溜息をついた。
 
「…もういい。お前に聞いた俺が馬鹿だったわ」
 
その物言いに、アスランの負けず嫌いの血がにわかに騒いだ。
「キ、キスはしたぞ!!ヤキンで、出撃前!」
「……マジ?!」
ぎょっとしたディアッカに、アスランは勝ち誇ったような顔を向けた。
「俺だって、そのくらいはする!」
「いや…ああ、うん。そーだよな…」
アスランにしちゃ頑張ったな、とも言えないディアッカは、曖昧に笑って立ち上がった。
 
「あんまりしたら、壊れちまいそう、って不安にならねぇ?」
「…は?」
 
ディアッカはぼんやりと星を眺めたまま言葉を続ける。
 
 
「分かんねぇんだよ。どこまで自分のしたいようにしていいのか」
「どこまで…したいように?」
 
 
首を傾げるアスランに、ディアッカは薄く微笑んだ。
 
「あんなに小さくて華奢で、すぐ泣いてさ。すぐ壊れそうなくらい脆いくせに強くて。意地っ張りだからなかなか甘えるなんてしねぇけど、ひとりになる事を誰より怖がってて。あっちに戻ったらどうなるかも分からない俺が、そんなあいつに不用意に手を出していいのか。万が一、ここでの別れが今生の別れになっちまった時、どれだけあいつが傷つくか。そう思ったら…何も出来ねぇだろ」
 
AAにいるナチュラルの少女、ミリアリア・ハウとディアッカがどうやら付き合い始めたらしい。
興奮気味のカガリからその事を聞かされた時、アスランは驚きを禁じ得なかったのだ。
プラントにいた頃のディアッカは、まさに来るもの拒まず。
アカデミー時代もザフトに入隊してからもそれは変わる事が無かった。
 
 
「…軍事裁判は、回避出来ないのか?お父上の力添えを持ってすれば…」
「嫌だね。クソ親父に借りを作るくらいならその時点でさっさとオーブに亡命するっつーの」
 
 
吐き捨てるように却下され、アスランは溜息をついた。
最高評議会議員であるディアッカの父、タッド・エルスマンは人望も厚く、アスランの父であるパトリックですら一目置く人物であった。
一人息子であるディアッカはなぜか父を毛嫌いしているが、タッド・エルスマンであればどんな手を使ってでも息子の命を救う為に奔走するだろう。
それはディアッカ自身も分かっているはずの事実だが、そのことを認められるほど大人にはなりきれていないのだ。
──かくいうアスランも、人の事は言えないのだが。
 
 
「その…彼女にはきちんと話をしたんだろう?お前の気持ちとか、プラントに帰った後の事とか…」
「あ?裁判の事なら話してねぇよ。話す気もない」
「そんな…何故だ?!それじゃ彼女に嘘をつく事に…!」
「ほんっと、お前って真面目だよな。案外イザークと気があうんじゃね?」
「ディアッカ!話を逸らすな!」
 
 
気色ばむアスランに、ディアッカは体ごと向き直った。
 
「大切すぎて手が出せない、なんてさ。物語の中だけの話だと思ってた。でも、そうじゃねぇのな。みっともねぇ話だけど」
 
アスランは体の力を抜き、切なげに目を細めた。
 
 
「…本当に大切だから、じゃないのか?少なくとも、見境無く女性に手を出していた頃のお前より、そうやって彼女を気遣うお前の方が俺はずっといい、と思う」
 
 
自分の言葉に目を丸くするディアッカを眺め、アスランは柔らかく微笑む。
「…あーあ。言いたい事言ってくれちゃって。やっぱ俺、お前、ニガテ」
ぷい、とそっぽを向くディアッカ。
その様子がおかしくて、アスランはさらに笑みを深めた。
 
「あの、さ」
顔だけ窓の外に向けたまま、ぼそりと囁かれた呟きにアスランは顔を上げる。
 
「ニガテだけど…。しかめっ面してイージスに乗ってた頃のお前より、今のお前の方が俺もずっといい、と思うぜ?」
「なっ…!」
 
狼狽するアスランに一矢報いたとばかりににやりと笑うディアッカはぽん、とアスランの肩を叩き展望室の出口に向かう。
「ディアッカ!おい!」
しゅん、と言うドアの開閉音にアスランは慌てて振り返り──そこで背中を向けたまま立ち止まるディアッカに気付き、つい息を飲んだ。
 
 
こいつの背中は、こんなにも大きかっただろうか。
大切な存在を見つけたものの背中は、こんなにも大きく感じるのだろうか。
 
 
「俺はなんとしてでも生き残る。…クソ親父の力なんて借りなくてもな。だから、それまででいい。あいつが一人で泣いていないか、だけ。たまに連絡くれる?」
 
 
花のような優しい笑顔の、ディアッカが誰より大切に想うナチュラルの少女。
その笑顔を思い出し、アスランはしっかりと頷いた。
 
「──ああ。分かった。だからお前も」
「サンキュ。分かってるよ。…じゃあな」
 
こちらに背を向けたまま軽く手をあげたディアッカが、扉の向こうに消えても。
アスランはしばらくそこを動く事が出来なかった。
 
 
 
 
 
 
 

007

4444hitキリリク、大変お待たせ致しました!
はな様、リクエストありがとうございます!!
お題小説と絡めたお話とさせて頂いたのですが、いかがでしたでしょうか?
お気に召して頂ければ幸いです。

当サイトには珍しい、アスランとディアッカメインのお話です。
お題小説でも書いた通り、自分の欲求よりもミリアリアの事を思いやるディアッカ。
でも、やっぱり悶々としちゃうと思ったんです。
いざプラントに戻るとなっても、自分自身の今後も不透明な訳ですし…。
そんな不安を、エターナルの展望デッキを舞台にアスランに相談する、そんなシーンを
書いてみました。
本編ゲームのオリジナル?映像で、この二人がAAの展望室(?)で語り合うシーンがありそこからヒントを
えて作成に踏み切ったお話です!
リクエストを頂いたのに、upが遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
これからもDMへの愛を糧に、頑張って物語を作り続けて行きたいと思っています。
いつもサイトを訪問して下さる皆様、そしてリクエストを下さったはな様に、心から御礼を申し上げます!
どうか皆様に楽しんで頂けますように!!

 

 

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お題配布元「確かに恋だった」

2014,10,5up