ブーケ

 

 

 

 
ステンドグラスの幻想的な光を浴びながら優雅に一礼するディアッカの姿を見た途端、マードックは目頭が熱くなるのを感じていた。
 
 
先の大戦で捕虜になり、せっかく開放されたのにバスターを駆ってAAを、ミリアリアを守ったディアッカ。
つい先日まで捕虜で、しかもコーディネイターという素性もあり簡単に周囲には溶け込めないだろうと思っていたマードックだったが、意外な程に人懐っこいザフトの小僧はあっという間にクルー達との信頼関係を築き上げて行った。
 
 
 
「なぁ坊主。お前、嬢ちゃんの事好きなのか?」
 
 
 
嬢ちゃんーーミリアリアーーを見つめるディアッカの優しい視線。
マードックは整備の傍ら、ついそんな事をディアッカに問いかけていた。
 
「…好き?俺が?あの女を?」
きょとんとするディアッカ。
そんなディアッカを見て、マードックは唐突にある考えに突き当たった。
ああ、こいつはきっとーー。
 
「お前、初恋まだだろ?」
「…はぁっ!?」
危うく工具を取り落としそうになるディアッカの姿に、マードックは豪快に笑った。
 
 
 
「いや、違うな。お前は今まで本気の恋をした事が無い。違うか?坊主。」
 
 
 
あまりにもマードックに似合わない台詞にぽかんとしたディアッカだったが、だんだんと頬が赤らんで来ているのをマードックは見逃さなかった。
「これでもプラントじゃかなりモテてたんだけど?俺。」
「ほー。そりゃよかったな。しかし嬢ちゃん相手にはずいぶん苦戦してるようだがなぁ?」
「…うっせーよ!そういう親爺はどうなんだっつーの!」
照れ隠しなのか、話題を変えて来た少年にマードックはあえて乗ってやる。
 
「俺か?もちろんあるさ!聞くも涙、語るも涙の大恋愛…」
「大失恋の間違いじゃねーの?」
「何だと坊主!!」
「そこの二人?なーにじゃれあってんの?」
 
 
二人が振り返ると、そこには呆れ顔の『エンデミュオンの鷹』の姿があった…。
 
 
 
***
 
 
 
挙式がつつがなく終わり、晴れて愛を誓い合った二人が教会のドアから姿を現す。
あれから別れと出会いを繰り返した二人は、今こうして幸せそうに微笑みながら寄り添い立っている。
マードックの目に、乾いたはずの涙がまた浮かび上がった。
 
 
振っちゃった、じゃねぇだろ、嬢ちゃんよぉ…。
童話にでも出てくる姫君のようにかわいらしく着飾ったミリアリアが、そこかしこから掛けられる祝福の声に笑顔で応えている。
ザフトの白い礼服姿のディアッカもまた、しっかりとミリアリアの腰に手を回し笑顔を浮かべていた。
 
 
 
お前らは、絶対に幸せになれよ。あいつもそう願っているはずだからな。
 
 
 
スカイグラスパーで出たまま二度と戻って来なかった少年兵の笑顔を思い出し、マードックは思わず空を見上げていた。
そんなマードックに気づいたディアッカがくすりと笑い、ミリアリアに何か耳打ちする。
少しだけ驚いた顔でディアッカを見上げるミリアリアだったが、続いてかけられた言葉に笑顔で頷いた。
 
 
 
「ミリアリアー!ちゃんと投げろよー!」
代表首長らしからぬカガリの声に、マードックは我に返った。
どうやら、ブーケトス、というものが行われるようだ。
ミリアリアがブーケを手に一歩前へ進み出る。
そしてーーー。
 
 
 
 
 
ぽすん。
 
 
 
 
 

「…………へ?」
 
 
色とりどりの美しいブーケは、綺麗な放物線を描いてマードックの手元に着地した。
「ミリィ、ナイス!!」
はっと顔を上げたマードックの目に映ったのは、腹を抱えて爆笑するディアッカととびきりの笑顔で手を振るミリアリア、そして呆然とこちらを見つめる招待客の姿であった。
「あーもうマジヤバい!!親爺、やったな!」
笑いが止まらないらしいディアッカ。
ようやく事態を把握したマードックの顔が、あっという間に見た事の無い程赤く染まる。
 
 
 
「やりやがったな!この、くそ坊主がーーー!!!」
 
 
 
美しい花を手に思わず大声を上げたマードックの姿に、ディアッカはもちろんミリアリアも、そして招待客達も声を上げて笑ったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
007

この後のパーティーで、ディアッカはマードックさんにしこたま飲まされると見た(笑)
『空に誓って』最終話のおまけ話、のようなものです。
マードックさんとディアッカの関係性と言うか絡み、個人的に大好きですv
ノイマンさん達ブリッジクルーのエピソードもその内書きたいなぁ…。

 

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2014,8,12拍手up

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