スーパームーン

 

 

 

 
「うわ…すごい…」
ミリアリアは夜空を見上げてついそんな独り言を呟いていた。
 
 
今夜は『スーパームーン』。
月が最も地上に近づいた時に起きる現象で、満月である今夜は通常より約14%ほども大きく、そして3倍程も明るく見えるという。
 
 
「今年のスーパームーンはいつもよりすごいらしいぜ?
そうそう、願い事をすると叶うって言い伝えもあるな。」
 
 
先程まで一緒にいた知り合いのジャーナリストが言っていた言葉をふと思い出す。
その言い伝えはミリアリアも聞いた事があった。
実際に願い事をした事もある。
 
 
 
「…あいつが、怪我なんかせずに元気で、無事でいますように。またいつか、あいつに会えますように。」
 
 
 
また戦争が始まってしまったけど。
それでも、どうか無事でーーー。
ミリアリアは眩しく光る月を見上げて、恋しい男の無事を、ただ願った。
 
 
 
 
 

二人が別れる前、休暇でディアッカがオーブに降りてきた時もちょうどスーパームーンだった。
プラント生まれのディアッカはその話にいたく興味を示し、ミリアリアは夜の浜辺に彼を連れ出し二人で夜空を見上げたものだった。
 
 
「すっげ…なにこれ?!」
「だからスーパームーンだってば。」
「いや、そりゃ分かってるけどさ。マジでこんなになるんだな…」
プラントでは起こりえない現象なだけに、ディアッカは興奮を隠しきれない様子だった。
 
 
「そういえばね、スーパームーンに願い事をすると叶うって言い伝えもあるのよ?」
「願い事?」
「そう。って言っても、私はした事ないけどね。
いつも月に見とれてて、肝心の願い事を忘れちゃって。」
そう言ってはにかむように笑ったミリアリアの肩を、ディアッカがぐい、と抱き寄せた。
 
「ちょっと!なぁに?!」
「ん?せっかくだから俺も願い事してこうかな、って。」
「え?何をお願いするの?」
きょとんとするミリアリアの額に、ディアッカはそっとキスを落とした。
 
 
「離れている間、おまえが一人で泣きませんように。ってさ。」
「…っ。馬鹿ね、泣いたりなんかしないわよ。」
 
 
翌日のシャトルでプラントに帰ってしまうディアッカのそんな言葉に、ミリアリアは慌てて浮かび上がって来た涙を堪えた。
「ミリィは?何お願いする?」
滲んだ涙に気づいたのか、今度は目元にキスを落とされ、ミリアリアはくすぐったさにくすりと笑った。
 
 
「…次に会うまで、お互い何事もなくいられますように」
「えー、なんかもの足りねぇなぁ。もうちょっとこう、甘い感じの…」
「うるさいわね!いいじゃない、女はリアリストなのよ!」
 
 
 
ーーずっと一緒にいられますように。離れていても気持ちがひとつでありますように。ーー
 
 
 
本当はそう願った事を、ミリアリアは恥ずかしくて最後までディアッカに言う事が出来なかった。
 
 
 
 
***
 
 
 
 
「やっぱすげぇよなー」
「ディアッカ、2回目よね?スーパームーン。」
 
 
あれから数年後、晴れて夫婦になった二人はまたオーブの海辺で明るく輝く月を見上げていた。
ミリアリアの国籍の関係でオーブでも諸々の手続きが必要だった二人は、新婚旅行を兼ね地球へと降り立っていたのだ。
 
 
「覚えてる?前に二人でスーパームーンを見た時の事。」
 
 
手を繋いで夜空を見上げながらミリアリアが発した言葉に、ディアッカは月を見ながら頷いた。
 
 
「もちろん。感動したからな。やっぱ地球ってすげぇなって。」
「ふふ、そうよね。ディアッカとっても驚いてたもんね。」
 
そしてミリアリアは、そっとディアッカの手を引っ張る。
「ん?なに?」
 
 
 
「あの時ね、ほんとはーーー」
 
 
 
そうして告げられた本当の願いに、ディアッカは目を丸くして。
柔らかく微笑むと頬を染めたミリアリアをぎゅっと抱き締め、その唇にキスを落とした。
 
 
 
「願い事、叶ったじゃん。俺のはダメだったけど。」
「え?…あ…」
「でも、いいよ。今日もう一回願うから。お前がもう一人で泣きませんように、ってさ。」
 
 
 
するとミリアリアは、ディアッカの腕の中で花のような笑顔を浮かべた。
 
「もう一人じゃ泣かないわ。だってディアッカがずっと一緒にいてくれるもの。」
 
 
 
ミリアリアの細い腕が、ディアッカの背中に回されて。
程なく落ちて来た熱い唇を、ミリアリアは目を閉じて受け止めた。
 
 
 
 
 
ーーずっと一緒にいられますように。離れていても気持ちがひとつでありますように。ーー
 
 
 
 
 
 
 
007

小噺10『それでもどうしようもなく君を』と対になってるんですが…。
糖度高すぎて呼吸困難になりました(笑)
このお話を書いた日がちょうどスーパームーンで(2014,8,11。でも台風で月は見えずorz)。
そこからヒントを得て作成したものです。

 

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2014,8,12拍手up

2014,9,16up