それでもどうしようもなく君を

 

 

 

 
ガナーザクウォーリアをハンガーに納め、ディアッカはコックピットを出るとヘルメットを取ってふるりと頭を振った。
 
 
ユニウスセブンが安定軌道上から外れ、地球に落下した。
何とか被害を最小限にとどめようと破砕活動に加わったディアッカだったが、それでもいくつかの破片は地球に落下し、甚大な被害を与えた。
 
 
 
身支度を終えパイロットルームから出ると、ディアッカは展望室に向かった。
そこからなら、地球の姿が見られるからだ。
これだけの事件の後という事もあり、展望室には誰もいなかった。
AAにいた頃は別の理由でよく展望室に行ったっけな。
そんな事を思い出したディアッカの脳裏に、茶色い跳ね毛の少女の姿が過った。
 
 
あいつは、今どこにいるのだろうか。
無事で、いるだろうか。
 
 
何とかして連絡を取る事が出来ればーー。
そこまで考え、ディアッカは溜息をついた。
もう、忘れると決めたはずだ。
自分を拒絶した女の心配を、どうしてする必要がある?
そう、あいつがどうなろうと俺には関係のない話だ。
 
 
 
「…エルスマン?」
訝しげに自分の名を呼ぶ声に、ディアッカははっと我に返り、振り返る。
そこには、シホ・ハーネンフースの姿があった。
 
 
 
 
 
 
「隊長と破砕活動に出ていたんですってね。お疲れ様。」
少し距離をあけて隣に立つシホに、ディアッカは苦笑した。
「ああ。お前も出てたんだろう?」
「ええ。でも奪取された新型とは出会わなかったわ。あなたたちは出会ったんでしょう?」
破砕活動中に現れたアンノウンの機体を思い出し、ディアッカは眉を顰めた。
「…会ったぜ?かなり強い奴らだった。」
「そう。」
 
 
その言葉を最後にシホは黙り込んだ。
ディアッカもそのまま口を閉じ、再び地球に目をやる。
 
 
 
「…地球、行かないの?」
 
 
 
シホが発した言葉に、ディアッカは目を見開いた。
「地球?なんで俺が…」
「心配なんでしょう?彼女の事が。だったら探しに行けばいいのではなくて?」
キッ、と薄紫の瞳がディアッカを捉え、射すくめる。
 
 
「…どうなろうが関係ない、と言ったそうね。
ならどうしてあなたはそんな苦しそうな顔をして、こんなところから彼女のいる地球を見てるの?」
 
 
ディアッカは思わず目を逸らした。
「…イザークに聞いたのかよ」
「どうだっていいでしょう?そんな事!話を逸らさないで!」
「行けるわけねぇだろ?!この状況で!」
 
 
血を吐くようなディアッカの声。
シホは溜息をつき、疲れた様子で視線を前に戻した。
 
 
「それでも、何らかの方法で彼女の安否を確認しようと思えば出来るはずでしょう?
地球にはアスラン・ザラだっているじゃない。彼に頼めば…」
「…イザークに聞いたんならもう知ってるんだろ?
俺はもう、あいつの事はもう何とも思ってない。忘れたんだ。
だからあいつがどうなろうと俺には…」
 
 
 
 
「じゃあ、もし彼女が死んでしまったとしても、あなたは大丈夫なのね?」
 
 
 
 
シホの、静かな声。
ディアッカは絶句した。
 
 
あいつが、死んでしまったらーーー?
 
 
 
「関係がないというのなら。死んでしまってもいいのね?大丈夫なのね?…どうなの、エルスマン?」
 
 
 
ディアッカは思わず地球に目をやった。
あいつの瞳と同じ、碧い星。
砕き損ねたユニウスセブンの欠片によって、今頃は各地で甚大な被害が出ているだろう。
もし、そんな地域にあいつがいたら?
 
 
「俺、はーーー」
 
 
狼狽えるディアッカに、シホは痛ましげな表情になる。
 
 
「あなたが初めて本気で好きになった女性、って聞いたわ。それなのにあなたはどうでもいい、って言うの?
それとも、ナチュラルの女が珍しかっただけ?」
その言葉に、ディアッカの表情が変わった。
「っ…。てめぇ…それ以上…」
「もう二度と会えないかもしれないのよ?…なくしてからじゃ、遅いのよ?」
 
 
怒気を漲らせるディアッカに臆する事なく、シホはまっすぐにディアッカを見据えた。
 
 
 
「ごめんなさい。言い過ぎたわね。でも、私が言った事、もう一度良く考えてみて。」
 
 
 
拳を握りしめて俯くディアッカ。
シホはくるりと背を向け、展望室の出口に向かった。
「…あと30分でブリーフィングよ。
それまでにはブリッジへ。いいわね?エルスマン。」
 
 
返事は、なかった。
 
 
 
 

シホが立ち去った後、ディアッカは壁にもたれてずるずるとへたり込んだ。
 
 
『じゃあ、もし彼女が死んでしまってもあなたは大丈夫なのね?』
シホの言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
 
 
 
「…大丈夫なわけ、ねぇじゃん…」
 
 
 

怒った顔、泣いた顔、寂しそうな顔、そして花のような笑顔。
意識して思い出さないようにして来た面影が、堰を切ったようにディアッカの中に溢れ出す。
 
 
「生きてろよ……ミリアリア。」
 
 
久しぶりに口にした、忘れられない少女の名前は、ディアッカには酷く儚いものに感じた。
 
 
 
 
 
 
 
007

2222hitの流れを汲んだ物語。

 

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2014,8,12 拍手up

2014,9,16up