子守唄

 

 

 

 

ぺたん、とウッドデッキに座り込むミリアリアの目の前にあるのは、シンプルで質のいいシャツに包まれた逞しい胸。
ジーンズに包まれた長い足は、ミリアリアを囲いこむような形に曲げられ、無造作に床に投げ出されている。
大きな手に髪を撫でられ、ミリアリアはゆっくりと目を閉じた。
 
 
 
「…静かね、ここ」
 
 
 
ぽつりと呟いたミリアリアの髪を、また大きな手が撫でた。
「俺たちしかいないからな」
穏やかな声が頭上から落ちて来て、ミリアリアは目を閉じたままふわりと笑った。
「明日には賑やかになるわ。カガリ達が来るから。」
「逃走しちゃう?」
回された腕に少しだけ力が込められ、ミリアリアの頭が柔らかいシャツに押し付けられる。
「だめ。心配かけちゃうでしょ?」
「まぁね」
 
 
そして、また沈黙。
海辺に建つ別荘のウッドデッキには、さわやかな風と、寄せて返す波の音だけが響いていた。
きゅ、とディアッカのシャツを掴んでいた小さな手から、少しずつ力が抜けて行く。
 
 
「…ミリィ?」
「……ん?」
「眠い?」
「ねむく、ない」
 
 
そう、眠くなんてない。
少し、疲れただけ。
自分を守るように回された腕が、温かくて。
囲われるように足を絡められるのが、なぜか嬉しくて、安心して。
それでちょっと、ぼんやりしてしまっただけ。
 
「…ごめん、ね」
 
ディアッカの腕の中で小さくそう口にし、ミリアリアは逞しい胸に擦り寄る。
温かい体温、とくん、とくん、と聞こえてくる鼓動、優しく髪を撫でるディアッカの手。
その全てが、ミリアリアを安心させ、癒してくれて。
 
やっぱりここが私の一番安心出来る場所。
ミリアリアの体から、徐々に力が抜けて行った。
 
 
 
ディアッカの心音に混じって聞こえて来た何かに、ミリアリアはぼんやりと霞む頭でそれでも耳をすます。
どこかで聴いた事のある、旋律。低めだけれど、優しくて綺麗な声。
髪を撫でる手とは別に、ぽん、ぽんと背中に落とされる手のひら。
ずっと聴いていたいくらいに優しいメロディと、小さな、甘い歌声。
 
もっと聴いていたい。
そう思っているのに、いつしかミリアリアはすぅっと眠りに落ちて行った。
 
 
 
 
 
腕の中ですやすやと寝息を立て始めたミリアリアをそっと抱きかかえ直しながら、ディアッカは眼下に広がるオーブの海と夕焼けを眺めた。
カガリが二人に提供してくれたこの場所は、アスハ家のプライベートビーチ。
本島から少し離れた小さな島はアスハ家の私有地となっており、入籍のためオーブに降りてからしつこく二人を付け狙う記者達もここまではさすがに入って来られない。
 
 
 
コーディネイターとナチュラルの結婚。
ザフトの高官であり上流階級出身のディアッカと、軍属とは言えオーブの一般家庭出身のミリアリアのロマンスは、二つの種族の架け橋と言われる反面、低俗なゴシップのネタにされたり、未だコーディネイターを受け入れられない者達に取っては中傷の対象でしかなかった。
 
おおかた、二人の結婚について誰かしらから何か言われたのであろう。
仕事の関係で単身オーブ行政府に出向いていたミリアリアの様子がおかしい事に気付いたディアッカは、カガリに連絡して予定より一日早くこの島へとやって来たのだった。
 
 
海が見たい、と言うミリアリアに連れられウッドデッキにやって来たディアッカは、壁にもたれるとそっと細い体を抱え込み、優しく抱き締めた。
いつもなら何かと反抗するミリアリアも、今日ばかりはおとなしくされるがままになっていて。
腕の中で安心したように体の力を抜いて行くミリアリアを見ているうちに、ディアッカはいつしか子守唄を口ずさんでいた。
 
 
 
幼い頃いなくなってしまった母親が小さなディアッカを腕に抱き繰り返し歌ってくれた、優しいメロディの子守唄。
自分の記憶力の優秀さに、ディアッカは思わず苦笑した。
 
 
 
眼前に広がる、ミリアリアの瞳とよく似た、暖かな碧い海。
どんな時でも、ミリアリアの瞳がこの海と同じ色であるように。
悲しみや苦しみに染まって、濁ってしまう事のないように。
それは、ディアッカの心からの願い。
 
 
「俺が、お前を守るから。ずっと一緒にいような。」
 
 
ミリアリアを起こさないように小さな声でそう囁くと、ディアッカは眠り込んでしまった愛しい妻の髪にキスを一つ落とした。
 
 
 
 
 
 
 
007

180+のえみふじ様との会話で出たネタ『ディアッカの子守唄』。

それを拾って頂き、えみふじ様がすごく素敵なお話を書いて下さったのですが、身の程知らずな

私も同じネタで一つお話を書かせて頂きました(汗汗汗

えみふじ様、いつも素敵なお話を本当にありがとうございますvvv

菫Ver,は、ミリアリアにディアッカが子守唄を歌ってあげている、という激甘設定となりました(●´艸`)

オマージュ(意味あってるかな…)と言う事で、どうか温かい目で見てやって下さい(汗

時系列としては、「空に誓って」終了後、オーブを訪れている時のお話です。

オーブ編、いつかきちんと纏めて中編くらいの長さのお話にしようと思っています。

「天使の翼」と同時進行になってしまうかも…

 

いつも当サイトをご覧頂き、ありがとうございます!

突発的に書いた癒し系作品(?)皆様に楽しんで頂ければ幸いです!

 

 

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2014,9,6up

2014,9,7改稿