ただ、守りたいだけ

 

 

 

 
「…今、何て言った?」
 
 
聞いた事の無い剣呑な声に、ミリアリアは少しだけ目を見開いた。
 
「ディアッカ?」
「お前…本気で言ってる?それ。」
 
 
二人がいるのは、ディアッカの宿泊するホテル。
先の大戦が終わり、晴れて恋人同士となった二人だったが、まだ世界はそんな二人に甘い時間を与えてくれる程落ち着いてはいなくて。
ディアッカは、やっともぎ取った休暇を利用し、ミリアリアの暮らすオーブを訪れていた。
 
 
 
三隻同盟に与していたディアッカがザフトに復帰したのは、戦争が終わって数ヶ月後の事だった。
プラントに戻ってすぐ、軍事裁判にかけられる、と聞かされたミリアリアはあまりの衝撃に絶句したが、ディアッカは通信越しに優しく笑って『心配すんな。大丈夫だから。』とだけ言い、それからしばらく二人は会話すら交わせなくなった。
再びディアッカと再会した時、ミリアリアはひどく泣いて、ディアッカを困らせたものだった。
 
そして、少しずつではあるが情勢も落ち着き始め、恋人同士になり約1年。
ディアッカは軍服の色が変わったものの親友であるイザークの副官に就任し、時には任務で、そして時には現在のように休暇を取るなどしてミリアリアにせっせと会いに来てくれていた。
 
 
 
「本気、よ。私、フォトジャーナリストになろうと思う。
紛争地帯やテロの現場をまわって写真を撮って、世界で何が起きているのかみんなに知ってもらいたいと思ってるの。」
 
 
 
ディアッカが聞き返した内容を再び口にした瞬間、だん!と大きな手がテーブルを叩いた。
「調子に乗るなよ!お前みたいのがそんな所に行って無事にすむと思ってんのか?」
その言葉に、ミリアリアの表情が変わる。
「危険なのは承知の上だし、別に死ぬつもりで行く訳じゃないわよ!それなりの準備だってして行くわ!
それに、そういう情報があれば…」
 
 
「絶対ダメだ。やめとけ。」
 
 
自分の言葉にかぶせるようににべもなく否定され、ミリアリアの頭にかっと血が上った。
「何でダメなのよ!」
「普通に考えてダメに決まってんだろ!俺が近くにいないのに、誰がお前を守ってやれるんだよ?!」
ディアッカの紫の瞳に射すくめられ、ミリアリアは言葉を失った。
アメジストの瞳が、悲しげに揺れている。
 
自分のせいでこんな顔をさせている。
ミリアリアの心がキリキリと痛んだ。
 
 
 
「俺は、俺のいない所でお前が危険な目に遭うのが耐えられないだけだ。
それって、おかしい事かよ?好きな女の事を心配して、守りたいと思うのがおかしい事か?」
 
 
 
ディアッカの言葉が、想いが、ミリアリアの心に突き刺さる。
こうして想われる事、大切にされる事はもちろん嬉しい。
ミリアリアとて、同じ想いだった。
 
だがミリアリアは、ただ守られているだけの自分が嫌だった。
何も出来ない自分でいる事に耐えられなかった。
だから、自分に出来る事は何かと考え、辿り着いたのがフォトジャーナリストと言う職業だったのだ。
 
 
守られているだけでなく、一人の人間としてディアッカの隣に立ちたい。
ザフトという大きな組織に属しているディアッカが知り得ない情報も、自分がフォトジャーナリストになればいち早く伝えることができるかもしれない。
ディアッカの助けになりたい。
戦争の悲惨さを世に訴えたい、という思いももちろん大きかったが、大切な人を守りたい、という思いもミリアリアにはあったのだ。
だが、話を取り合ってすら貰えない事で苛立ちだけが募り、次第に言葉がきつくなって行く。
 
 
 
「私は…そんなに何も出来ない人間なの?
ただ黙っておとなしく、あんたの後ろでぬくぬくと守られながら笑っていればそれで満足?」
「そうは言ってない!だけど、実際お前に出来る事は他にもあるだろ?
なんでわざわざ危険に飛び込んでく必要があるんだよ?!」
「じゃあ私に出来ることってなによ?答えられる?」
「…っ、ミリアリア…」
 
 
ミリアリアは碧い瞳に涙を溜め、立ち上がった。
自分の決意もその仕事を選んだ理由も最後まで聞かず、一方的に反対意見しか口にしないディアッカ。
こんな喧嘩がしたいわけじゃないのに、どうしてもうまく気持ちが伝えられない。
それが悔しくて、ミリアリアは冷静さを失い、意地になっていた。
 
 
 
「調子に乗ってるのはどっち?答えられないなら口出ししないで!
私だって、私のやり方で戦いたいのよ!
トールの、フレイの死を無駄にしたくない!
邪魔しないでよ!!」
 
 
 
一息にそう言い切り、ミリアリアははっとして口に手を当てた。
違う、私の言いたい事はーーー。
 
 
「…トールの為、か?」
先程までと打って変わった、静かで低い声。
「ちが…そうじゃ…」
「結局俺は、トールの代わりにもなれないってわけ?」
紫の瞳が切なげな色を帯びる。
ミリアリアの目からついにぽろぽろと涙が零れた。
 
「ディアッカを、トールの代わりになんて思った事無いわ!
ディアッカはディアッカだって前にも言ったでしょ?馬鹿にしないで!」
 
ディアッカは無言のまま、涙を流すミリアリアをじっと見つめている。
その悲しげな瞳に、ミリアリアは耐えられなくなって目を逸らした。
 
 
「…もう、いい。」
「…ミリィ?」
「ここまで信用されてないなんて思わなかった。だから、もういい。
そんなあんたに、守って欲しくなんてないわよ!!」
 
 
ミリアリアは脇に置かれたバッグを手にして、ディアッカに背を向けた。
 
 
 
「おい、ミリ…」
「…私、フォトジャーナリストになるわ。もう決めたの。だから口出ししないで。
それが不満なら…あんたとはもう、会わない。」
 
 
 
その言葉を口にした瞬間、ミリアリアの胸は張り裂けんばかりに痛んだ。
また、私は失うの?
こんなに好きで、大切なのに、つまらない意地を張って自分から手を離すの?
 
「…帰る。」
 
荒れ狂う感情を持て余したまま、やっとの事でそれだけ告げ、ミリアリアはドアに向かう。
止めてほしい。お願い、引き止めて。
 
 
 
心の中でミリアリアはディアッカの言葉を待った。
浅ましくて狡い自分に吐き気を覚えたが、それでも、素直にはなれなかった。
 
だが最後まで、ディアッカがミリアリアを引き止める事は無かったーーー。
 
 
 
 
 
 
 
007

3333hitキリリク作品になります!
hime510様からのリクエストで、『「振っちゃった」発言辺りのお話』と言う事で、今回ずばり振っちゃったシーンのお話となりました。
この後二人は別離の時を過ごしますが、2000 hit小説「Compensatory behaviors」→
拍手小噺「想いを届けて」→「それでもどうしようもなく君を」を経て、長編「手を繋いで」に繋がります。
また、後日談的な話で、拍手小噺「ラベンダー」があります。
互いを想い合う故にすれ違う二人が、何とも切ないなぁ、と思います。
だからこそ、DMには幸せになってもらいたい!
これからもその思いを胸に、色々はお話を書いて行きたいと思っています。

hime510様、いかがでしたでしょうか?
拙い文章ですが、楽しんで頂けましたら幸いです。
そして、当サイトに遊びに来て下さる全ての皆様にも感謝の気持ちで一杯です!
これからも、どうぞよろしくお願い致します!!

 

 

text

2014,9,4up

2014,10,6一部改稿