夢で逢えたら

 

 

 

 
ディアッカがふと顔を上げると、そこはAAの格納庫だった。
あれ?俺いつここに来たんだっけ?
きょろきょろと辺りを見回すが、マードックをはじめとする整備クルーの姿も無い。
あるのはハンガーに収まったストライクと、バスターだけ。
と、不意に人の気配を感じてディアッカは格納庫の隅を振り返った。
 
 
そこに置かれていたのは、シミュレーター。
いつもはカバーがかけられていたはずだったが、なぜか今日はそれが取り外されている。
そしてそこには、サイと同じ連邦軍の少年兵用軍服を来た少年が座っていた。
 
 
「お前、何やってんの?」
ひょいと後ろからシミュレーターの画面を覗き込み声をかけたディアッカは、こんなやつAAにいたっけ?と首をひねった。
「ああ、いつ言われても出撃出来るように空き時間にコレやってるんだ。
結構いい線行ってるだろ?」
「ふーん。お前、パイロット候補生かなんか?」
 
茶色い髪の少年がくすり、と笑うのが気配で分かった。
 
「違うよ。普段は副操縦士席に座ってる。」
「てことはブリッジクルーなんじゃん。それなのにお前もこれ乗って戦うわけ?」
「ああ。だってキラだけに頼りっぱなしじゃ申し訳ないだろ?
それに、俺だって好きな子くらい守りたいしな!」
 
ディアッカはシミュレーターに頬杖をついた。
 
「…その気持ちは分かるな、すごく。」
「だろー?ミリィはさ、すぐお姉さんぶるけどほんとは心配性の甘えっ子だからさぁ。
だから守ってやらないとな!お前が。」
「そうだな…って、え?」
目を丸くするディアッカに、茶色い髪の少年は背を向けたまま今度は声を上げて笑った。
 
 
「頑固なのは知ってたけど、あんなに意地っ張りだったなんて、俺知らなかったよ。
お前、よくあんなミリィ相手に頑張ったよな。俺なら心折れてるかも。」
「ああ…まぁな。っていうかお前…」
戸惑うディアッカに相変わらず背を向けたまま、少年は言葉を続けた。
 
 
 
「お前ならきっとミリィを大切にしてくれるって思う。
ミリィからもさ、お前の事本当に信頼してる、ってのが伝わってくるもんな。
だから、もう泣かすなよ?ミリィの事。」
 
 
 
少年がシミュレーターの電源を落とし立ち上がると、ディアッカの視界が急激にぼやけはじめた。
「な…おい!お前、もしかして…!」
ディアッカは慌てて少年に手を伸ばし、そこで初めて自分がモルゲンレーテのジャンパーではなく黒い軍服を身に纏っている事に気づく。
しかしそんな事より今は目の前の少年、だった。
 
靄がかかったような視界の中、少年はディアッカの方を初めて振り返る。
しかしその顔はもうほとんど見えない。
 
 
 
「ミリィにさ、花、毎年ありがとうって伝えてくれる?でももういいよって。
大切な人と二人で前を向いて生きて行ってほしい、ってさ。」
 
 
 
「お前…トールだろ!なぁ!?」
あっという間にシルエットだけしか見えなくなってしまった少年に、ディアッカは声を張り上げた。
 
「お前も色々大変そうだけどさ。がんばれよ。
ザフトのディアッカ・エルスマン。」
 
その声を最後に、ディアッカの意識はふっと途切れた。
 
 
 
 
 
 
「…アッカ。ディアッカ?」
温かい手が肩を揺さぶる感触に、ディアッカはぱちりと目を開いた。
見慣れた天井、見慣れた家具。
そこは、ミリアリアと暮らすアパートのリビングだった。
 
「ミリ…アリア?」
「どうしたの?なんだかうなされてたけど…大丈夫?」
心配そうに顔を曇らせるミリアリアを、ソファに転がったままディアッカはじっと見つめた。
つ、と手を伸ばしてその小さな顔に指を滑らせる。
 
「怖い夢でも見た?こんな所でうたた寝するから…」
 
くす、と優しく微笑んだミリアリアが、伸ばした手に自分の小さい手を重ねた。
ディアッカは重ねられた小さな手をそっと握りしめ、ゆっくりと起き上がった。
そして、いまだ心配そうな顔をするミリアリアをおもむろにぎゅっと抱き締める。
わたわたと腕の中で暴れるミリアリアを抱き締めながら、ディアッカはサイドボードに置かれた一輪挿しに気づいた。
 
 
「あそこに置いてある花、トールに?」
 
 
ミリアリアがびくり、と肩を震わせた。
「知って…たの…?」
「んー…なんとなく。」
「ごめんね、黙ってて…。迷ったんだけど、毎年の事だったから、つい…。」
ディアッカを気遣ったからこそ、迷いながらも黙っていたのだろう。
しゅんと項垂れるミリアリアを、ディアッカはさらにきつく抱き締めた。
 
「別にそんなんで怒んねーよ。気ぃ使わなくていいって。」
「そんなつもりじゃないけど…でもやっぱり、ディアッカに言わなかった事自体が、なんだか…」
嘘が嫌いなミリアリアは、ディアッカに黙ったままだったのが心苦しいのだろう。
 
 
「じゃあさ。今度ニコルの墓参り、一緒に行ってくれるか?」
 
 
ディアッカの出した妥協案(?)に、ミリアリアは目を丸くした。
「ニコル…さん?ブリッツのパイロットだった?」
「そ。で、結婚式が終わって落ち着いて、地球に行ったらトールの墓にも連れてって?
ちゃんと挨拶しときたいから。」
 
 
奇しくも二日違いで天に召された、それぞれの大切な恋人と友人。
ニコルがもし生きていたら、きっとミリアリアとも仲良くなっただろう。
軍人なんかにしておくのは勿体ない、優しくて、穏やかないいやつだったから。
 
「…うん。じゃあ次のお休みにニコルさんのお墓参り、行こう?」
腕の中でふわりと微笑むミリアリアに、ディアッカも笑顔で頷いた。
 
 
 
…勝手に人の夢に出て来て、驚かせやがって。
お前の伝言は、俺の気が向いた時にミリィに伝えてやるよ。
毎年花を用意するミリィの気持ちを、俺は無駄になんか出来ないからな。
 
その代わり、オーブについたら真っ先にお前のとこに行ってやるよ。
 
だから、待ってろよ。トール・ケーニヒ。
 
 
 
 
 
 
 
007

入籍が済んですぐのお話。
トールとニコルの命日は近いんですよね。
ミリィは優しいから、次の日にはきっと一輪挿しに花が二本生けられているんでしょうね。
(ニコルの分!)
トールが夢に出てくる、という設定のお話は色々なサイトでお見かけしますが、
菫ワールドでも書いてみたくて、3000hitのお話はこちらとさせて頂きました。
2000hitが遅くなってしまった分、こちらは思い立ってすぐに書き始めたので
早々のupとなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。
いつもサイトに足を運んで下さり、ありがとうございます!
長編の方もマイペースながら更新して参りますので、今後とも気長にお付き合い下さい!
3000hit、本当にありがとうございました!!

 

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2014,8,16up