食堂のカウンターに食器を戻しながら、ミリアリアは隅に置かれたトレーに目をやった。
「これ、誰のですか?」
「ああ、捕虜の分」
聞かなきゃ良かった。
いや、聞いたところで放っておけばよかった。
何が悲しくて、危うく刺し殺しかけた相手の食事を自分は運んでるんだろう。
しかも、温め直したりして!
ミリアリアはトレーに目をやり、ふぅ、と溜息をついた。
コーディネイターだってお腹は減るものね。
捕虜だって人間なんだから、ちゃんとした食事をとってもらわないと!
そういえば、シャワーとか水分補給とかどうしてるのかしら?
「おっせーよ。飯くらいしか楽しみねぇのにさー」
不意に聞こえて来た声に、びくり、と体が揺れる。
「…ごたごたしてたの。遅れてごめん。」
そう言ってトレーをそっと置き、ふと顔を上げる。
そこには目を丸くしたコーディネイターの少年が、ぽかんとした顔で自分を見ていた。
そんな顔されたら、放っとけないじゃない。
きっとこれから毎日、食事を届けに来てしまうであろう自分を想像して、ミリアリアはまた一つ溜息をついた。
***
まさか、この少女が自分の食事を運んでくるなんて思っていなかった。
嫌そうにしているものの、話しかければ最低限の返事だけはしてくれる少女。
ディアッカは気づけば彼女を質問攻めにしていた。
しかし、それに対する返答はいまいち要領を得ないもので。
「ここはオーブよ、って言われてもなぁ…。マジで意味わかんねぇし。」
ミリアリアが立ち去ったあと、固いベッドに転がりながらディアッカはそう呟いた。
そういや、あったかい飯ってひさしぶりに食ったな、と今更気づく。
あいつ、わざわざ温めてから持って来てくれたのか?
「ミリアリア、ねぇ…。」
自分が殺そうとした相手を、なんでそんなに気遣えるんだ?
ディアッカは不思議に思ったが、なぜか悪い気はしなかった。
「…いい奴なんだな、あいつ。」
薄暗い天井を見つめながら、ディアッカはまた独り言を呟いていた。
まだ本当に出会って間もない二人。
ミリアリアの優しさを「いいやつ」と表現するディアッカ。
恋のはじまりってこんな所からなんじゃないかと思います。
2014,7,18拍手小噺up
2014,8,12up