二人の体が、同時に動く。
ディアッカは駆け寄って来るミリアリアを受け止める為に腕を広げ。
ミリアリアはその胸に飛び込み、ディアッカの体に腕を回して縋り付くかのように自分の体を摺り寄せる。
「ミリアリア…なんで…ここに…」
ディアッカは驚愕のあまり、それしか口にできない。
風に乗って、花のトワレの香りが二人の周りを舞う。
「ごめんね、ディアッカ…、ごめんなさ…」
あれほど泣くまいと決めていたはずなのに。
ミリアリアの謝罪は途中から言葉にならない。
「ミリアリア?」
「また、ディアッカを、傷つけて…。こんなに…大好きなのに…」
泣くのを必死で我慢しているのがわかるその口調に、意地を張っていたディアッカの心が優しく溶けて行く。
「ミリィ」
「え…?きゃっ…」
名を呼ばれて顔を上げるより先に、ミリアリアはディアッカの手に頭を引き寄せられ、そのままきつく抱き締められた。
愛しくて、愛しくて。
自分がこれほどまでにミリアリアを愛しているという事を、ディアッカは実感する。
「…俺もごめん。結婚やめたいのか、なんて言って…。言い過ぎた。」
やはり気にしていたのだろう。ミリアリアの肩がびくりと震える。
「お前に拒絶されて頭に血が上って…。ごめんな、ミリアリア。」
ディアッカの手が、ミリアリアの風に乱された柔らかい髪を撫でた。
「昨日は、その…あんな事言っちまったけど…。お前は、俺の婚約者だ。そのことに変わりはない。お前を手放すつもりもない。」
ミリアリアがおずおずとディアッカを見上げる。
そして、ミリアリアはエザリアにもマリューにも言えなかった不安を口にした。
「…怖かったの。こんな私でいいのかって。前にも同じ事で悩んで、何回もディアッカにちゃんと言葉にしてもらってるのに、それでもまた不安で…。」
「うん。」
ディアッカはミリアリアの髪を撫でながら、優しく相槌を打つ。
「こんなんじゃ、ディアッカはいつか私の事、要らなくなるんじゃないかって思って…。昨日ディアッカがあの女の人の名前を口にした時、すごく…嫉妬したの。」
「…うん」
「それまで、何を言われても私は私、って思ってたけど、私、ディアッカに甘えてばっかりだし。何もしてあげてない、そう思ったら、自分にどんどん自信がなくなって行ったの。」
「…そっか」
何もしてあげてない。
その時点で、ミリアリアは間違っているとディアッカは思う。
ミリアリアが自分にしてくれた事なんて、数え切れない。
ミリアリアの存在、言葉、笑顔。
そして、いつだって惜しみなく与えられる愛情。
その全てがディアッカの力となり、支えになる。
なのにその事を、ミリアリアはまるで分かっていないのだ。
「私、ディアッカを幸せに出来るのか不安で。一人にして、なんて言ったけど、ほんとは、またひとりになる、のが、怖くて…」
ミリアリアの声が震える。
要らなくなる?ミリアリアを?俺が?
ーーこんなに、愛おしいのに?
ディアッカは、顔を歪めた。
まるで、泣く寸前の子供のように。
そして、万感の想いを込めて、言葉を紡ぐ。
「要らないわけ、ないだろ?」
そう言うや否や、ディアッカはミリアリアに唇を重ねた。
優しく合わせるだけの口付けを、角度を変え何度も繰り返す。
「ディア…ん…」
ディアッカは唇を離し、再びミリアリアを抱き締めた。
「本当にごめん。不安にさせて。昔の女がどうであれ、俺はそのままのお前を愛してる。お前しか要らない。お前がいなきゃ、俺は幸せになんかなれねぇよ。」
また突風が吹き、抱き合う二人の髪を巻き上げる。
「だから…一人になんてしないから。一生俺がそばにいて、守るから。」
途端、碧い瞳から涙がぽろりと零れた。
ミリアリアの腕がディアッカの首に回されて。
そうして背伸びをすると、ミリアリアは自分からディアッカに唇を重ねる。
「愛してる…。ひっく、大好き、なの、ディアッカのこと…。誰にも、ひくっ、とられたくっ、ない…」
ディアッカの心に、途方もない歓びと、果てのない愛しさが込み上げる。
初めて聞いた、ミリアリアの独占欲を示す言葉。
自分は、愛されている。ミリアリアから、誰よりも。
「俺は、どこにもいかないから。大丈夫。」
ミリアリアは泣きながら何度も頷き、子供のようにディアッカにしがみつく。
ディアッカは、髪を撫でていた手を離し、ミリアリアの顎にそっと添えて上向かせた。
「俺もさ。不安だったんだ。結婚やめる、って言われたらどうしよう、って。」
紫の瞳が、ミリアリアを捕らえる。
「お前は俺のこと、もう要らなくなった?何回もお前を悩ませて傷つけた、こんな俺は嫌?」
その言葉に、ミリアリアの瞳からさらに涙が溢れる。
「今、言ったでしょ…?そんなわけ、ひっく、ないじゃない…ばか…」
ディアッカはくす、と優しく微笑んだ。
「じゃあ、もう泣くな。」
しゃくりあげるミリアリアの頬に、ディアッカの唇が触れ、涙を舐め取られる。
ミリアリアは、くすぐったさに目を閉じた。
「ミリアリア。俺と、結婚して?」
それは、三回目のプロポーズ。
頬に寄せられた唇が紡ぎ出す言葉に、ミリアリアは目を閉じたまま、こくりと頷く。
「…うん」
そのまま、温かい唇が頬を滑り。
与えられたのは、先程とは違う、気を失いそうなほどに激しくて深く、そして甘い口付けだった。
エザリアにも言えなかった、ミリアリアの『嫉妬』。まぁ、エザリアさんにはバレバレかもしれませんが…
迷いを乗り越えて、さらに強くなった二人の絆。
次は、いよいよ、です。
2014,7,29up