ホット・ラム・ティー 5

 

 

 

 
時間は遡り、ミリアリアがバスルームに消えてから程なくの事。
来客を告げるチャイムの音が慌ただしく鳴り響く。
シホは紅茶の葉をケトルの横に置き、眉を顰めると玄関に向かった。
うるさいくらいにしつこく繰り返されるチャイムに溜息をつくと、ロックを外してがちゃりとドアを開ける。
 
 
「チャイムが壊れるからやめてくれないかしら?ディアッカ。」
 
冷ややかに軽蔑のまなざしを浴びせられたディアッカは、その冷たい視線にぐ、っと言葉を詰まらせた。
 
 
「…遅くに、悪い。」
「そう思ってるのなら帰れば?それじゃ。」
そう言って取りつく島も無くドアを閉めようとするシホに、ディアッカは慌てて声をかけた。
 
「ちょっと待て、シホ!」
「何かしら?」
「…とにかく中に入れてくれ。頼む!いるんだろ?あいつ!」
 
このままドアを閉めて、この男の来訪自体を無かった事にしても良かった。
しかし、目の前にあるディアッカの真剣な表情を見たシホは溜息をつき、廊下の灯りをつける。
「…どうぞ。」
焦燥に強張っていたディアッカの表情が、少しだけ、緩んだ。
 
 
 
「で?何しに来たの?」
「あ…イザークに、えと…」
動揺し、しどろもどろのディアッカはまるで教師に叱られる生徒のようだった。
「隊長に?」
「ここにミリィが居るって聞いて、その」
「いらっしゃいますけど?それが?」
「…だから」
 
 
「どうしてミリアリアさんが貴方から逃げてきたのか、逃げる必要があったのか、その理由を貴方は考えたの?」
 
 
氷のようなシホの視線を、ディアッカは動揺しながらも正面から受け止める。
 
「…逃げた、理由?」
「今回の事、ミリアリアさんが全部悪い、なんて思ってるんじゃないでしょうね」
「それは」
「ミリアリアさんは貴方から逃げて、私の所に来た。
近くとは言え、あんな格好でこんな時間に。
どういう事なのか説明してくれる?いいえ、説明、出来る?」
「…あいつと、喧嘩したんだ。俺の…せいで、あいつは出て行っちまって…」
「要領を得ないわね。もう少し順序立てて…」
 
 
その時、バスルームの中から聞こえた微かな音を、シホの鋭敏な耳は聞き逃さなかった。
 
 
「…説明出来ないならもういいわ。
貴方はそこで反省しててください。最低な男性に出すお茶も椅子も、うちにはありませんから」
 
言葉を失ったままのディアッカをもう一度冷たく睨みつけると、シホはふいっと背中を向け、リビングのドアをばたんと閉めた。
 
 
***
 
 
「ディアッカ…?どうして…?」
 
ミリアリアは思わず立ち上がった。
空になっていたグラスがその拍子に手からすべり落ち、ラグの上に転がる。
 
「イザークから、連絡もらって。それで来た。」
 
ぼそりと答えるディアッカ。
「ちょうどミリアリアさんがバスルームにいる時に来たんです。
それで、簡単に事情も聞いて。
で、せっかくなので反省の意味も兼ねて、廊下に立たせて待たせてました。」
「ああ…。そう、なの。」
あまりの急展開に、ミリアリアは間の抜けた返事をしてしまう。
 
 
「で?少しは頭も冷えたの?ディアッカ。」
シホがきつい視線をディアッカに送る。
「…ああ。悪かったな、シホ。」
「謝る相手が違うでしょう?」
「…すみません」
 
 
シホが深い溜息をつく。
ミリアリアは展開について行けず、そんな二人をぼんやりと見ている事しか出来なかった。
 
 
「さて、どうするのかしら?ディアッカ。
私はこのままミリアリアさんに泊まって行ってもらっても一向に構わないけど?」
 
 
その言葉に、弾かれたようにディアッカが顔をあげ、ミリアリアを見た。
ミリアリアも、ディアッカをただじっと見つめる。
そしてそんな二人を、シホもまた無言で見つめた。
 
 
すっ、とディアッカが動き、ミリアリアの目の前までやってくる。
 
「…迎えに来た。」
「…うん。」
 
 
ミリアリアはディアッカを見上げる。
シャワーを浴びたはずなのに、額にはまだうっすらと汗が残っていて。
きっと、自分がいなくなった事に気づいてあちこち走って探し回ったのだろう。
イザークにもシホにも、相当怒られたに違いない。
すると、ディアッカがミリアリアの手を掴んだ。
 
「…帰るぞ。」
 
シホの手前、どうしていいのか分からないのだろう。
ぶっきらぼうな態度、言葉。
それでも、ミリアリアには分かる。
ディアッカが自分をどれだけ心配してくれたのか、ということが。
 
「うん。」
 
ミリアリアは、ディアッカに掴まれたままになっている手にそっと力を込めた。
その姿に、シホは安心したように微笑んだ。
 
 
 
 
「シホさん、ほんとにありがとう。あと、カクテルごちそうさまでした。
イザークにも、ありがとうって伝えてね。」
 
シホの部屋の玄関で、ミリアリアはそう言うとぺこりと頭を下げた。
ミリアリアの軍服が入った袋を手にしたディアッカが、そんな姿を愛おしげに見つめている。
 
「いいえ。また何かあれば、いつでもいらして下さい。」
シホはにっこり微笑んだ。
 
 
 
 
 
 
 
007

シホ、静かに激怒(笑)

ある意味ディアッカにとっては、イザークよりも怖い存在かもしれません(笑)

そして、そんなシホの計らいでミリアリアの想いを聞いていたディアッカは、何を思ったのでしょうか…。

 

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2014,7,24up