想いを届けて

 

 

 
とある国の、小さな宿で。
ミリアリアは端末を開き、ターミナルでの情報収集に勤しんでいた。
ここでは、地球だけでなく、プラントやコペルニクスでの情報もある程度なら入手できる。
ミリアリアはつい、ザフト関連のスレッドを開いていた。

 
「…今どこにいるのかしら、あいつ…」
3ヶ月以上前に別れてしまった大好きな人。
今更連絡をするわけにもいかず、後悔ばかりがミリアリアを苛む。
自分の出来ることで、あいつを守りたかっただけなのに。
そうやって素直に言えば、あいつはこの仕事につくことを認めてくれただろうか。

 
「…ないわね。それは。」

 
超がつくほど過保護なあの男は、きっと何を言っても反対しただろう。
しっかり話をすれば結果は違うかもしれないが、それが出来るほどミリアリアは大人ではなかった。
 
と、ミリアリアの目があるスレッドに止まった。
 
「何よ、これ…」
 
 
ミリアリアはスレッドを開くと書かれている情報にざっと目を通し、表情を変えると一心不乱に他のスレッドを漁り始めた。
 
 
 
 
「なんだ、このメール…」
ジュール隊の執務室に置かれた自分専用の端末の前。
ディアッカは、送信元不明のメールを前に、困惑の表情を浮かべていた。
 
「ウィルスとかだったら、めんどくせぇしなぁ…。」
 
そう言いながらも、何となく。
何かに誘われるように、ディアッカはメールを開いていた。
 
「…写真?」
 
まず目に入ったのは、添付された画像。
ラベンダー、だろうか。
自分の瞳の色と同じ、紫色の花がたくさん、風に揺れている写真。
プラントではあり得ない光景である事から、地球のどこかで撮られた写真であると思われる。
青い空と、ラベンダー。
 
ディアッカはカーソルを画像に合わせた。
 
 
「これ…?まだ何かあるのか?」
「どうした、ディアッカ」
ぶつぶつと独り言を繰り返す親友を不審に思ったのか、イザークが声をかけて来た。
「いや、ちょっと…。」
そう言って画像をクリックしたディアッカの顔色がみるみる変わる。
 
 
「イザーク!今日議事堂って誰が使ってる?!」
イザークは驚いて顔を上げた。
「何だ?突然…」
「タレコミだ!信憑性はどうかわかんねぇけど、旧ザラ派が自爆テロを計画してるってさ!」
その声に、紅茶を用意していたシホも振り返った。
「すぐ調べる!」
イザークが端末に向かい、恐ろしい早さでキーボードに指を走らせる。
 
 
「議長はいらっしゃらないが…穏健派議員が多く集まる会合、だな。
まさに今、会議が行われているようだ。
…おい、そう言えばお前の父君も…」
ディアッカは立ち上がった。
 
「それは関係ねぇよ。とにかく、議事堂に行こうぜ?
ガセネタだったらそれでいいじゃん。
それに、もし本物のタレコミだったら…」
「ああ、大事件になるな。」
イザークも立ち上がった。
 
「シホ。先に行く。爆弾処理班の手配をして、そいつらと合流しろ。」
「了解しました!」
淹れたての紅茶をポットに移し終えたシホは、そう言って敬礼した。
 
 
 
 

『プラント評議会議事堂にて、自爆テロ発生。
しかし犯人はザフト軍兵士によって取り押さえられ、未遂に終わる』
 
 
 
そろそろ日が暮れようとしている。
ミリアリアはとっておきのコーヒーを飲みながら、ターミナルの新着情報をじっと見つめていた。
どうやらあいつは、あの画像からこの情報までたどり着いてくれたようだ。
でなければ、自爆テロは完遂されていたはずだ。
 
「良かったね、ディアッカ…。」
 
なぜ、ラベンダーの画像を選んでしまったのかはミリアリアにも分からない。
消したはずのアドレスを、しっかり記憶していた自分が浅ましく感じ、ミリアリアは溜息をついた。
ディアッカに教えてもらった豆で淹れたコーヒーが、今日はやけに苦く感じる。
 
 
「私だって、少しは役に立つでしょ?」
空に向かって発した呟きは、そのまま、消えた。
 
 
 
 
ディアッカは、執務室に戻ると端末を開き、先程の画像に見入っていた。
青い空と、ラベンダー。
 
「お前、なのか…?」
 
ディアッカの腕から逃げていったナチュラルの少女は、あれから変わりがなければ今もカメラを手に戦場を回っているはずだ。
彼女が写すのは戦場の風景。
こんな平和な風景写真ではない、はずだ。
 
「まさか、な。」
 
ディアッカは自嘲したように苦い笑みを浮かべると、脳裏に浮かべた少女の影を振り払うように端末を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
007

二度目の大戦が始まる前、二人が別れている間のお話です。

自分の出来る事でディアッカを守りたい、というミリアリアの軸は離れている間もぶれる事がありません。

ディアッカに送ったラベンダーの写真は、ミリアリアが取材中にたまたま見かけたもの。

その花の色に、大好きなディアッカの瞳を思い出してついカメラに収めてしまったもの、です。

そしてディアッカもまた、ラベンダーと一緒に写された青い空の色を見て、ミリアリアを思い出します…。

 

 

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2014,6,25拍手up

2014,7,18up

2014,8,13改稿