来年は、三人で

 

 

 

 
手を繋いで角を曲がると、目の前に現れたのはキラキラと輝くイルミネーション。
「わあ…」
思わず声を上げてしまったミリアリアを見下ろし、ディアッカは柔らかく微笑んだ。
 
 
***
 
 
結婚して三年。春から夏にかけてのカーペンタリアへの長期出張は、波乱の連続であった。
入籍当時から続いていた一連の事件もようやく落ち着き、ディアッカは再び黒服を纏いジュール隊へと復帰を果たしていた。
そして──奇跡のように宿った新しい命もミリアリアの胎内ですくすくと育ち、妊娠五ヶ月を迎えた。
先月まであった悪阻も嘘のように落ち着いたミリアリアはすぐにでも仕事に復帰したがったが、オーブにいるカガリ・ユラ・アスハの厳命により、体調に考慮しつつ週の半分ほど総領事館に足を運ぶ生活を送っている。
 
『いくらお前の頼みでもこれだけは譲れないぞ。今、私の中での優先順位はお前でもディアッカでもない。お前のおなかの中にいる命だ!』
 
特別扱いはされたくない、と自宅からオーブに繋げたヴィジフォンで訴えたミリアリアにぴしゃりとそう告げ、カガリは勝ち誇ったように微笑んでいて。
その背後にいた彼女の婚約者──アスラン・ザラもまた、柔らかな笑みを浮かべていた。
 
 
***
 
 
「寒くないか?冷えは良くねーだろ」
「うん。しっかり防寒してきたから平気。ディアッカこそ大丈夫?」
「俺も念のためコート着てきたから大丈夫」
 
十月の終わりは朝晩が冷える傾向にある。そして女性──特に妊娠中のミリィにとって、冷えは大敵のひとつ。
主治医であるマリアからも体調が安定したとお墨付きをもらってはいるものの、今年ばかりは例年より早めに切り上げたほうがよさそうだ、とディアッカは思った。
「あ。あんなモチーフ、去年は無かったんじゃない?かわいい!」
「お前、よく覚えてんなぁ…」
「だって綺麗なんだもの。そうだ、去年プレゼントしてくれたサンキャッチャー、そろそろ飾らなくちゃ!」
「出しといてくれればいいよ。俺がやるから」
自立心旺盛なミリアリアは、人に頼ることが実は苦手だ。身重の体で踏み台にでも乗られて、万が一足でも滑らせたら、と思うとディアッカの背筋が寒くなった。
 
「…ッカ。ディアッカ?」
「あ、え?!ごめん、何?」
 
思考の淵から引き戻され、ディアッカは碧い瞳を覗き込んだ。
「どうしたの?ぼんやりして」
「あー、うん。久々だからつい、さ。悪い」
「…ううん。ねぇ、ベンチに座らない?」
「いいけど…寒いだろ」
「もう!嫌ってほど着込んでるから少しくらい大丈夫!」
そう。結婚して初めての年にここを訪れた時、二人が交わした約束。
これからもずっと二人で、このイルミネーションを見に来よう。
毎年ではなくてもいいとは言っていたものの、昨年はちょうど予定が入り、バタバタとしていたためここへ来ることは叶わなかった。
だからこそ今年は必ずミリアリアを連れてこよう、とディアッカは決めていた。
 
「いつ見ても、すごく綺麗よね…」
 
うっとりとイルミネーションを見上げるミリアリアは穏やかな笑みを浮かべていた。
結婚してから初めての長期出張、その最中に起きた数々の事件。翌月に予定されている最高評議会での証人喚問。そして──奇跡のような懐妊。
ディアッカとミリアリアの人生の中で、今年はある意味二度の大戦に匹敵するほど波乱万丈だったかもしれない。
たくさん寂しがらせて、心配をかけてしまった、と改めてディアッカは思う。
そして、人生でいちばんの幸福と喜びを感じた年でもあった、とも。
来年の今頃、自分たちはどんな風に過ごしているのだろう。
ディアッカはそっとミリアリアの下腹部に手を伸ばし、温めるかのように添えた。
 
「ディアッカ?どうしたの?」
「…来年は、二人じゃないんだよなって思ってさ」
 
その言葉に僅かに目を見開いたミリアリアは、ふわりと微笑み小さな手をディアッカのそれに重ねた。
 
 
「来年はまだ小さいからどうなるかわからないけど…この子が歩けるようになったら、今度は三人でここに来たいな」
 
 
それは、ディアッカにとってあまりにも甘美で幸せすぎる未来で。
こみ上げる感情を理性で押しとどめ、ディアッカは小さく「うん」と頷いた。
 
「ここだけじゃない。いろんなところに行こうぜ。三人で。プラントと地球のとっておきを、嫌ってほど教えてやりたいじゃん」
「地球の…?」
「そ。オーブの海とか、お父さんとお母さんが笑顔で迎えてくれるお前の家。議事堂の羽クジラ。プラントや地球、いろんなとこにいる俺たちの大切な仲間にも会わせたいし…お前が嫌じゃなければ、スカンジナビアにも連れて行きたい」
 
スカンジナビアには、現在証人としてプラントに逗留しているアンジェラやラスティが在籍する、ダストコーディネイターのコミュニティがある。
家族に捨てられた彼らに、どんな形で迎え入れられるかはわからない。
だが、受け入れてもらえる気がするのだ。彼らに寄り添い続けたミリアリアと一緒なら。
 
「…そうね。サチにも会いたいし、行きたいな。スカンジナビア」
「ああ。行こう。いい報告が出来るよう、俺も最善を尽くすからさ」
 
肩を抱き寄せこめかみにキスを落とすと、ミリアリアは少しだけ頬を赤らめ、それでも幸せそうに微笑んだ。
「うん。ありがとう、ディアッカ。今までもこれからも…大好きよ」
突然落とされた愛の告白にディアッカは面食らい──自然と柔らかな笑みを浮かべる。
「俺も、愛してる。もう二度とあんな思いはさせないから…ずっと、一緒だから。なんにも心配すんなよ?」
「…うん」
そう。もう二度とあんな風に不安にさせたりはしない。ミリアリアのことも、彼女の体内に息づく愛しい存在にも。
 
碧と紫の視線がぶつかり合い、まるではじめから決まっていたかのように二人は唇を重ねる。
「ディアッカ、だいすき」
オレンジの光に照らされながら、幼子のようにかわいらしい愛の言葉を贈ってくれる愛しい妻を、ディアッカはそっと抱きしめた。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

大大大遅刻の2017ハロウィン小噺です!!
「手を繋いで」シリーズの長編とリンクさせたくて毎年書いているのですが、今回は「天使の翼」の終盤部分とリンクしています。
二人で過ごす最後のハロウィンでしたが、二人が見つめているのは新しい家族が増えるであろう未来。
たくさんの出来事を乗り越え、さらに絆を深めた二人を少しでも書き表すことが出来ていたならとても嬉しいです。

来年は遅刻しないよう頑張ります;;
皆様が素敵なハロウィンを過ごせましたように♡

 

 

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2017,11,8up