ヤク締部

 

 

 

 
魔術師協会、薬物取締部。
通称ヤク締(じめ)部。
魔術師というものは魔法を体系別に分解し一般人にも扱えるように再編したものを扱う者だ。扱えるのは魔法使いの上っ面の範囲が基本。その程度なら身の内に魔力が無くてもその辺に漂っているもので事足りるし、自然界もそんな微々たるものは何の支障も出やしない。 魔術師というものは基本的に力を持たないのだ。
それを覆すのもののひとつが様々な薬物だ。
合法非合法は非常に難しい領域で、薬物取締部が扱うのは完全な黒のみだ。
禁忌の代物。
そのひとつが目の前に置かれた“地返しの血”だ。
 
 
「そんなわけで、ひとりやばそうな女の子と繋がりつけてきたぜ」
 
 
中央魔術師協会、第四号書庫“ヤク締部”本部では煙草の煙が靄を描いていた。
所狭しと資料棚が置かれた文字通り書庫に置かれた長テーブル二つを突き合わせた周り、雑にパイプ椅子が置かれ誰ともなく煙草を飲んでいる。
 
 
「どっかで見た気がする顔だったんだけど、どうにも空気が違ったから一見普通だったけど一応な」
 
 
報告書をテーブルに載せると、今日いる薬物取締部の面々が声を上げた。
 
 
「見た気がって飲み屋のお姉さんじゃないんですか?」
 
 
「どこかで見たとはどっかの女中だろう」
 
 
「どこかって花売りじゃないのか?」
 
 
三人して言ってることは同じ。
 
 
「その辺のおねーさんじゃねぇよ!!少なくともどっかの修羅場だ」
 
 
あのミリィと名乗った少女の顔を浮かべる。
気丈に見えて危ういものを感じた。これはと思い声を掛ければ“地返しの血”に反応したし知っていた。
魔術師は魔術師協会により正魔術師、魔術師、准魔術師、上術師、下(か)術師、子師(しし)、練士(れんし)と大別される。
彼女はただの子師にしては腹が据わり過ぎていた。きっと大切な人を失った時のものだろうと、勝手に推測する。
 
 
「西方はまた中央が出しゃばって、と煩いでしょうね」
 
 
少女顔をしたニコルという資料を統括している彼が言う。
 
 
「だが女は中央にいる。こっちの管轄だろう」
 
 
銀髪の艶やかな切れ長の目の男、イザークが言う。
 
 
「しかし西方か……。大きなものでこちらが出向いたのは2年ほど前の中央と西方の境界であった、邪法の徒が都市に骸(むくろ)の薬を撒いた時か」
 
 
顎に指をあて考え込むのはアスラン。
件の修羅場で実働の指揮を執り、自身も腕の立つ彼は記憶を辿っているようだ。
アスランが言っている一件は通称“骸の邪法(むくろのじゃほう)”と呼ばれる、闇に堕ちた魔術師の行った悪逆非道な違法薬物の使用による大規模な事件であった。
骸の薬とは、薬を吸い込んだ人間の神経を冒し操り人形にするという代物だ。冒された神経は徐々に死に、1日と保たず人間は死ぬ。
撒かれた地域はそう広くなかったものの、魔術師の命が「周囲の人間を殺せ」というものだったために大惨事になり、適切な処置で回復が見込める者すら薬物取締部や他実働部隊が手に掛けた。
 
 
「150……いや、200か?」
 
 
ミリィにバスターと名乗ったディアッカはポツリと呟いた。
 
 
「そのくらいでしたね。あの件の犠牲者の中に身内がいればこの魔術師もこちらも怨みたくなるでしょう」
 
 
嫌な事件だったと悲痛な面持ちのニコルに、憮然として煙草を吹かすイザーク。
アスランに至っては表情を無くしている。
魔術師は捕らえた。
その魔術師も外道――道から外れた魔法使い及び魔術師の総称――の一味の末端でしかなく、単に使える薬かどうか実験をしたかったそうだ。それ以上は本当に何も知らないし吐くものもなかった。
 
 
「……その魔術師が拷問の末に極刑として、そこの“地返しの血”を作って死んだと知ったらどう思うんだろうな」
 
 
実働部隊の指揮をすれば非情かつ冷酷に指示を出すのに、アスランはこの部署にしては優し過ぎるのだ。問い掛けるともなしに呟かれたアスランの言葉に、ディアッカは返せない。
違っていればいい。
もし、もし彼女が此方の予想通りだったなら。
正魔術師になれば魔術師協会の全てを知る権限が与えられる。
それが目的ならば。
 
 
「敵は俺達、か」
 
 
 
 
 
 
 
2

 

 

 

なんと第2話をいただいてしまいました…!
やくも様、ありがとうございます!
なんだか話の展開が大きくなってきましたね…。
しかもこの終わり方!続きが気になりすぎでしょう皆さんっ!(笑)
というわけでやくも様、何卒続きを…(読者代表より笑)
 

 

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2016,12,9up