3, リアルすぎた仮装

 

 

 

 
キラがドアを開けると、そこには砂糖菓子のかたまりが、いた。
 
 
「あらあらあら…思いのほか、動きづらいですわね…」
「あの…ラク、ス…?」
「キラ?…あらあら?いけませんわね…」
肩に乗せた大きなキャンディー(のようにキラには見えた)が振り返り様に引っかかり、ラクスはよろけた。
慌てて駆け寄り手を差し伸べるキラに、ラクスはにっこりと微笑む。
 
「キラは、まだ準備が終わっていませんのね?」
「え?」
「今日はハロウィンパーティーですのよ?まさかその軍服でお出かけになるおつもりですの?」
「や、あの」
 
 
仮装って…子供だけじゃないのか?!
 
 
内心動揺するキラに、ラクスは執務机の上に置かれた箱を指差しまたにっこりと笑う。
 
「今日はバルトフェルド隊長やダコスタさんもいらっしゃいますのよ?
何なら会場にも着替える部屋がありますわ。」
「へ、へぇ、そうなんだ。」
「あちらがキラに用意した衣装ですの。時間もあまりございませんし、着替えはあちらで致しましょうか?」
「着替え?僕も?!」
声を裏返したキラを、ラクスは不思議そうに眺める。
 
「だって、今日はハロウィンパーティーですのよ?」
「いや、そうだけど、ラクス…」
「ディアッカさんも仮装されるとミリアリアさんから伺っておりますわ」
「だってディアッカは、そう言うの好きそうだし」
「キラは…お嫌いですか?」
 
途端に顔を曇らせるラクス。
その顔を見たキラは、自らの完全なる敗北を、悟ったーーー。
 
 
 
 
「あらあらあら!バルトフェルド隊長、とても良くお似合いですわ!」
「はっはっは。この日の為に特別に取り寄せましたからな。
パーティーは派手に、そして楽しい方がいい。違うかね?ヤマト准将」
「はぁ…そうですね…」
 
 
キラは引きつった笑みを、目の前の海賊ーーいや、バルトフェルド隊長に向けた。
長身で引き締まった体つきのバルトフェルドが纏うのは、おとぎ話に出てくるそのまんまの、海賊の衣装。
アイパッチをつけ、わざわざ義手を取り外している辺り、何か作為的なものを感じる。
 
 
「あ、あの、ダコスタさんは…?」
「ああ、彼はちょっと支度に手間がかかっていてね。
もう少ししたら現れると思う。僕が知恵を振り絞って考えた最高の仮装でね。」
「それは…楽しみですね」
 
 
ちっとも楽しみではなさそうな表情のキラに、ラクスがまた不思議そうな表情になる。
「キラ?もしかして、どこかお体の具合でも悪いんですの?」
「えっ!?いや、そんなことないよ!」
体中に色とりどりの甘いお菓子(もちろん本物ではない)をつけたラクスが纏うのは、レモンイエローを基調としたドレス。
膝丈のスカートの中にはパニエが入っており、まるで傘のように広がっていた。
ピンク色の長い髪はツインテールをアレンジした変形シニヨンに結い上げられ、縞模様のキャンディー(しつこいようだが本物ではない)が刺さっている。
足元は、絶対に走る事など出来ないであろう分厚いソールの珍妙な靴。
 
ハロウィンって、こういうのだったっけ…?
なけなしの知識を総動員するキラだったが、ラクスに着替えを促され渋々部屋を移動する事となった。
 
 
 
 
「ここでいいのかな…?」
やや方向音痴気味なキラは、おそるおそるドアをノックする。
「開いてるぜー」
中から聞こえて来た意外な人物の声にキラは目を見開き、急いでドアを開けた。
 
 
「ディアッカ、来てたん…うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 
そこには、漆黒の衣装に身を包み、薄く形の綺麗な唇から血を滴らせた、吸血鬼、が立っていた。
 
 
 
 
「お前さぁ…ほんとに…いや、なんでもない」
「だって、しょうがないじゃないか!まさかそんな仮装するなんて思ってなかったんだから」
冷たいタオルを額に乗せたキラは、大きな紫の瞳でじろりと目の前の吸血鬼ーーディアッカを睨んだ。
「確かに、変にハマりすぎてるもの。びっくりするわよね」
そう言ってタオルを取り替えてくれるのは、ディアッカの最愛の妻であるミリアリア。
白い帽子に袖の膨らんだワンピース、チロリアンテープのついたエプロンを重ねている所を見ると、こちらは町娘の仮装、と言った所だろうか。
 
「ミリィまで何言ってんだよ。俺がヴァンパイア、お前がそれに襲われる町娘、ってちゃんとしたコンセプトがあるだろーが。」
「それって…」
ミリアリアはキラにタオルを手渡しながら、何かを悟ったような微笑みを浮かべる。
 
 
「……考えたのは私でもディアッカでもないわ。バルトフェルド隊長よ」
 
 
キラは自分用の衣装が入った箱に、絶望的な表情で目を落とした。
 
 
 
 
キラ・ヤマトは切実に逃げたいと思っていた。
しかし、このドアの向こうには、最愛の女性が自分の登場を今か今かと待っている、はずで。
 
ーーーこれはパーティなんだ。僕がしてるのは仮装なんだ。いつもはこんなんじゃないんだ!
 
何度目かわからない言葉を心の中で呪文のように唱え、意を決してドアに手をかけたその瞬間。
 
 
 
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!こわいいぃぃぃぃ!!!」
 
 
 
パニックになったらしい小さな女の子の声が、廊下いっぱいに響き渡った。
 
「な、おい、サーシャ!待てって!」
「いやあぁぁぁ!パパあぁぁぁ!!」
「サ、サーシャ、あれはディアッカだよ」
「りあっか、ちがう!りあっか、どこ?」
 
 
………うん。大人の僕でもあれだけ驚いたんだもんね。そりゃあんな小さい子が見たら泣くよね…。
 
 
うえぇぇぇん、と泣く声を聞きながら、キラはひとつ深呼吸をする。
そして、かちゃりとドアノブを捻り、大きくドアを開けた。
 
 
「サーシャ!Trick or Treat!!」
 
 
サイにしがみついて泣きじゃくっていた(なぜかサイはいつものオーブの首長服だった!)サーシャが、キラの声にぴたりと泣き止み顔を上げる。
 
 
 
「………ぴーたーぱん!!!」
 
 
 
緑の衣装を纏い、キャメル色のブーツとカラフルな羽のついた帽子をかぶったキラに、サーシャはグレーの瞳をきらめかせて満面の笑みを浮かべる。
「ほーらサーシャ、言っただろう?もうすぐピーターパンが来る、って」
「バルトフェルド隊長…それ、もしかして…」
がっくりと項垂れるディアッカを慰めていたミリアリアが、引きつった笑みでおそるおそる尋ねると、隻眼の海賊はにんまりと笑った。
 
 
「ピーターパンとセットなのは、もちろん宿敵、フック船長だろう?」
「だったらラクスにウェンディやらせろよ!!」
ディアッカの空しい突っ込みが部屋にこだまする。
「おやおやエルスマン。ニヒルなヴァンパイアの言う台詞とは思えんなぁ?」
その言葉に頭を抱え、ますます落ち込むディアッカ。
その隣ではミリアリアが苦笑いを浮かべていた。
 
 
「まぁ、いいじゃない。サーシャのご機嫌も直ったんだし。
ディアッカも、もうしょんぼりしない!仮装をやめたらまたいつもみたいに懐いてくれるわよ、きっと」
 
 
ミリアリアの言葉に、ラクスも笑顔で頷いた。
「そうですわ、あまり気を落とさないで下さいな、ディアッカさん。
では、パーティを始めましょうか?」
「あれ?ダコスタさんは?」
ディアッカのおかげで自分の恥ずかしい仮装から皆の気が逸らされた事に内心安堵しながら、キラはまだ到着していないらしい船長…いや、バルトフェルド隊長の腹心の姿を探した。
 
 
「おかしいな。もうすぐ着くと連絡があったんだが…。
まぁ、自分の身くらい自分で守れるだろう。気にせず、始めるとしようか!」
 
 
そのあまりにも無責任な言葉に、キラは引きつった微笑みを浮かべながらラクスに差し出されたグラスを手に取ったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
〜余談〜
 
 
「ディアッカ。ラクス嬢のパーティーはどうだったんだ?」
「ああ、あんときはサンキュ。それなりに楽しかったぜ?来年はお前も来いよ。」
「シホ次第だが、出来れば顔くらいは出したいものだな。」
「…でも、もし出席するんだったら、虎にだけはギリギリまで知られない方がいいぜ?」
「は?」
 
ディアッカはどこか遠い目をして、言葉を続けた。
 
「ダコスタがさ…頭にカボチャのかぶり物してホテルに来ちまったんだ。」
「………は?」
「それが虎の用意したもんだったらしくてさ。カボチャが巨大すぎて横向かないと部屋に入れねぇし、それ以前に不審者扱いされてロビーでホテルマンと延々押し問答だったらしいぜ」
「…わかった。参加の際は万全を期して隠密行動を取ろう。」
 
イザークは深く頷くとともに、ダコスタに降り掛かった災難を思い、ディアッカ同様に遠い目をしたのだった…。
 
 
 
 
 
 
 
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ディアッカ、吸血鬼のコスプレ仮装、えらい似合うと思うのは私だけでしょうか?
なんだかオールキャラ出演の様相を呈してきましたが、サーシャが予想外の存在感を発揮しておりますね(汗)
ちなみにラクスの衣装は、ア◯カツの乙女ちゃんのブランドをイメージしております(笑)
ハロウィンだし、こんなふざけたお話もアリという事でどうかお許し下さい;;
そしてダコスタくん…オチに使ってごめんね…orz

 

 

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2014,10,31up

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